米中貿易摩擦が「冷戦」ではない

米中貿易摩擦が「冷戦」ではない

皆さま、宋文洲です。本当に本当にお久しぶりです。

2018年の11月9日、隔週金曜日にお届けしていた宋メールを中止し、不定期に送ると約束しましたが、二年近くまったく何もしないことに時々罪悪感さえ覚えました。多くの方々にとって「あ、そんなものがあったな」といった存在でしょうが、約束を忘れないのは私の数少ない長所の一つです。

あれからの約二年間、皆さんはどのように過ごされましたか。きっとそれぞれのお立場でご自分とご家族のために奮闘されてきたと思います。激しい変化の中でも宋メールの読者の方々は波を乗り越え自分の船をよい方向に向かわせる方々だと思います。私も相変わらず日本中国と米国の間を回っており、自分の納得する生活をしておりましたが、今年のコロナ流行で国際間の移動が困難になり、しばらく日本に留まっていました。

先日、古くからお付き合いをいただいている北海道大学の先輩で毎日新聞の藤原さんから電話をいただきました。私が東京にいると分かると「米中関係が重要なテーマなので宋さんの考え方を聞かせてくれないか」と頼まれました。

本来日中両方のマスコミにもう出ないと決めた私ですが、なぜか好きな友人がたまたまマスコミに居る場合、特別に対応したくなります。多分インタビューに答えたいのではなく、その友人と会話したいからでしょう。

インタビューは私の東京の自宅で行われ、あっという間でした。記事が出た日に藤原さんからテキストファイルをいただき、「ネットで流してもよい」との許可もくださいました。これが今回の宋メールを出すきっかけでした。

この二年間、私にとっても米中関係がとても気になる時期でした。米中貿易戦争やファーウェイ、TikTokの禁止からポンペオ国務長官の「冷戦宣言」まで、米中関係はまさに最悪の状態に陥りました。

古い読者なら覚えていると思いますが、トランプ当選の半年前に宋メールで彼の当選を予告しました。これと同様、米中社会の現場で個人個人を考察しなければ、問題の真相と本質は分かりません。いまの米中問題は起きるべきことが起きただけなのです。もし意外な部分があるとすればそれはコロナウィルスの流行です。この世界的大流行が米国と中国に与えた異なる結果が、米中関係の進化を加速させたのです。人間は余裕がなくなった時に本音と本性が出ます。トランプが勝った最大な理由は報道や調査に出にくい人間の本音が投票に出たからです。

ではどうぞインタビューの内容をご覧ください。


〜貿易摩擦「冷戦」ではない 中国出身評論家・宋文洲さんの見た米中 80年代の日米関係を中国参考〜

毎日新聞2020年9月3日 東京夕刊

 何やら未来は不安だらけ。新型コロナウイルスに限らず、米メディアが「冷戦」と派手に伝える米中摩擦も暗雲の一つだろう。成人後に来日した外国人としては初めて日本の証券市場(東証マザーズ)に上場を果たしたことで知られる中国人実業家で評論家としても活動する宋文洲さん(57)は、米中関係をどう捉えているのか。日米中3カ国を行き来する宋さんを東京の自宅に訪ねた。

 トランプ政権はこの夏、世界中の若者に人気の動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」を標的にした。運営する中国系企業が米国での事業部門を売らなければ米国内での利用を禁止すると迫り、「米中IT戦争」の一環とされる。

 内情を知る宋さんはこう切り出した。「米国で活動する中国人経営者がアプリの利用者のデータを中国政府に流している、というトランプさんの心配は僕も分かるんです。実際、中国政府が命令すれば、中国の企業人は従わなくちゃならない。だから(ウェブ会議システム)『Zoom(ズーム)』を運営する会社の経営者は米国籍を取っていますが、中国の大学を出ているだけで中国政府の圧力を受けると米国では思われる。それであえて中国でのサービスを停止したくらいです。ティックトックの場合、最初からデータベースもサーバーもすべて米国内に置いたのにこんな目に遭う。細心の注意を払っても、疑念を晴らせないのは政治的差別です」

 2018年の米国の中間選挙前に対中関税が強化されたように、中国たたきは11月の大統領選に向けた戦術という見方もある。「でも政治だけではない。この2、3カ月、トランプさんのやり方は露骨だけど、民主党政権時代から米国は政府文書に中国を戦略上のライバルと書いてきた。つまり敵です。でも中国系企業は米国の敵になりたくないから言われたことを受け入れる。両国のシステムが折り合わないことを分かった上で、うまくやりたいだけなんです」

 ヒトやモノが自由に行き来している米中関係を、冷戦時代の米ソ関係に例えるのはお門違いだと指摘する。「米中国交樹立につながるニクソン大統領訪中(1972年)の頃、中国に自由は全くなかったのに『米中蜜月』と言われた。今の中国は当時の何百倍も自由です。ネットでもよほどの発言をしなければブロックはされない。文革の時代からみれば、はるかに自由ですよ」

 香港やウイグル自治区などの活動家を除けば、ほどほどの自由が許された中国の「強権的資本主義」は世界のモデルになり得る――。そんな声がここ最近、言論界で聞かれるようになったが、「米国が本当に恐れているのは、それです」と宋さん。

 「トランプさんが、大統領選で負けたら、米国人は中国語を勉強し、中国のまねをしなきゃならないと言っているのは本音。でも中国の社会システムは外から見れば怖いかもしれないけど、ほどほどに安心して暮らせるんですよ。今回のコロナでも、武漢でマスクなしでパーティーをしている映像が世界に流れたけど、米国人はそれを見て自分たちのコロナ対策に問題があったと反省はしない。ただただ中国をバカにする。人間ってそう。企業でも社員の忠誠心を高めるにはライバルをバカにするのが一番早い」

 外に攻撃の目を向け、国内の不安を覆い隠すのが、米国の常ということか。「米国が一方的に恐れているだけで、中国には日本のネット右翼みたいに妙に自国に自信のある人なんてほとんどいない。共産党の宣伝機関は職務上胸を張っているけど、ふつうの中国人は弱気で、やっと米国はそんなには偉くないと気づき始めたくらいです」

 一方的に怒る米国と聞いて思い出すのは、日本車をハンマーでたたき壊す場面に象徴される80年代の日米貿易摩擦だ。「すごく似ているし、中国政府もそう認識している。あの時、日本はもうちょっと頑張れば半導体などあらゆる分野で世界をリードできたのに、日本の官僚や産業界は完全に負けた。18年の秋、来日した中国の友人に呼び出されました。行ってみたら30人ぐらいの中国のアナリストや経営者がいて、『米国との貿易戦争が始まるから、日本に調査に来た』と言っていた。米国の言いがかりのつけ方、日本の半導体業界がどう解体されたかなど、米国からどんな圧力を受けたかの研究をしに来ていました」

 17年1月にトランプ大統領が米通商代表に指名したロバート・ライトハイザー氏(72)は、83〜85年にレーガン政権で米通商代表部次席代表を務めた人物で、日本に鉄鋼の輸出自主規制を受け入れさせた。「日本からの提案書を紙飛行機にして投げ返したという話は有名で、日本はそのプレッシャーに負けた。もし日本が拒否していたらどうなっていたかをシミュレーションした上で、中国は今、米国に抵抗している。要は、米国は、中国がおもちゃの人形や靴下を作っている間は見過ごすけれど、高度な通信機器や航空機を製造する工場にはなっちゃいけない、と言っているんです。中国が一度、米国の要求を受け入れれば、アプリからドローン、監視カメラの会社まで独自技術を持つところは全部つぶされます」

 そんな米国の態度について「元々そういう国だと言う人もいるけど、僕らの世代は米国を信用していたし、公平な国だと思っていた。でも最近の米国は余裕を失い、人間の一番よくない部分が出ている感じがする。そんな中国人の失望感が日本人にもよくわかると思うんですよ」

 この先、日本はそんな米中とどう絡んでいけばいいのか。「僕が『日本は米国の属国をやめるべきだ』と言うと、『中国の属国になるよりマシだ』って反論する人がいるんだけど、そういう考え方自体が属国根性なんですよ。中国での世論調査では、日本への好感度はここ数年ずっと上がっていて、コロナ前に中国人が日本にこぞって観光に来ていたのは、同じ東洋文化を持ちながら日本が中国と違うからです。和の文化は中国にも昔はあったかもしれないけど、少なくとも今はない。中国人の日本好きは政治とは関係ない。日本に肌で触れて『いいね』と言っている。化粧品の好みから味覚まで中国人と日本人は近いのに、微妙に違うところがある。それが宝物みたいに思える。だから、少なくとも今のままの日本であってほしいと僕は思います」

 日本と米国との違いについては、こんなふうに表現する。

 「日本の良さは、先祖代々ここで生まれ同じ文化をずっと維持してきたというところにある。そこが移民国家の米国と違うところ。ナンバーワンというだけで愛国心を謳歌(おうか)してきた米国は、何かあればすぐバラバラになる。でも日本は戦争に敗れても愛国心を失わずに来た。米国にもっと言いたいことを言っていいと思う。日本は軍事面で米国を、マーケットで中国をうまく利用しながら独自の文化を大事にした国の模範であってほしいですね」【藤原章生】
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