「アイデンティティ」って何ですか

「子供は何歳から留学すべきか」、「子供は何歳から英語を勉強すべきか」を議論する際、多くの日本人は「日本人としてのアイデンティティがまた形成していないのに・・・」と言います。しかし、私の記憶では中国人からこのようなアイデンティティ論を聞いたことがありません。

「日本人のアイデンティティは何ですか」と聞くとたぶん殆どの方がはっきり答えられないと思います。たぶんなんとなく自分と同様に思考し、同様に行動する人の特徴を意味するでしょう。しかし、英語のアイデンティティは単なる「識別すること」に過ぎないのです。

外国に住む中国人は華僑と言って世界中に7千万人もいますが、皆さんから見れば彼らはしっかりしたアイデンティティを持っていると思うかもしれませんが、華僑のアイデンティティは多様である上、常に激しく変化しているのです。

本来の華僑は中国国籍を持ちながら中国に生活拠点がない人たちでした。しかし、ここ数十年の中国では、華僑も中国に生活拠点を持つようになりました。また、私のような、中国に生活のベースを持ちながらよく海外でも生活する人も華僑と呼ばれることがあります。華僑と国内の中国人との区別が無くなるにつれてそのアイデンティティも無くなるのです。

華僑に対して外国の国籍を取得した中国系の人のことを「華人」というのですが、これも元々は海外に住むことが前提でした。しかし、ここ数十年、旅行、留学、資産運用、政治リスクなどの理由で外国のパスポートを取得する中国人はたくさんいます。彼らは外国に家を持っても仕事や生活の中心は中国にあります。このような人たちは華人なのか華僑なのか、本来の華僑と華人のどちらにも属さないような気がします。

私は自分のアイデンティティと子供のアイデンティティを考えたこともありません。親の影響、環境の影響と自分が歩んできた独自の経験が自分独自のアイデンティティを形成してくれるはずです。国や文化からの影響は受けますが、国に属し国によって分類されるものではありません。

先週からロサンゼルスに来ています。台湾の知人と昼食する際、彼は華人としてロサンゼルスの中国系の企業家達を纏めて中国本土と交流を行う団体のキーパーソンです。同じ中国語を話し、同じ文化背景を持つ彼に他の中国人との区別を意識しませんが、大陸の体制や政治について話せば、その考え方の違いは歴然とします。

夜の街を散策すると路上で歌ったりダンスしたりする方々の殆どはヒスパニック系の方々ですが、その歌の歌詞は英語ではありません。ロサンゼルスの人気レストランは殆どメキシコ系料理です。農場、建設現場、ホテルの清掃係など、メキシコの不法移民がいないと経済は回らないでしょう。

メキシコからやってきた移民たちは仕事上英語を使うのですが、同じメキシコ人とスペイン語を話しメキシコ料理を食べ故郷の歌を歌う機会はたくさんあります。米国の影響をいくら受けても在米メキシコ人のアイデンティティはなくならないでしょう。

私が海外で出会った日本人は皆メキシコ人以上に日本人の集まりによく参加し、日本語を話し、日本料理を楽しむのです。日本のアイデンティティを無くすどころか、むしろ日本にいる日本人よりずっと日本のアイデンティティを持っているような気がします。

アイデンティティとは家族と友人から受けた影響で自然に形成するものです。日本人の家庭に生まれた以上、その文化に自然に染まるのです。外国文化の影響は日本文化の影響を消すものではなく、むしろその人独自のアイデンティティを作り出してくれるのです。

印象深い人とは環境に同化する人ではなく、様々な環境の影響を受けながらも独自の生き方をする人です。その過程に形成された個性はその人を識別する最もよいアイデンティティになるのです。


この記事へのコメント
宗さんのメルマガいつも興味深く読ませていただいています。
日本人のアイデンティティについては、同じ環境に住んでいればそれなりに近い感覚を持つという程度の物だと思います。それを声高に主張するのは、なんとなく気持ちの悪いものを感じています。
ただ、英語の早期教育と並べて書かれるのは、これも少し違う様に思いました。取り合えず一つの言語で基礎を固めてから、他の言語を学ぶというのはそれなりに納得感があります。本人の性格にも依ると思うので、どっちが正しいという事は一概に言えないと思いますが、親の思いだけで早期に英語をというのはあまりいい事には思えないです。取り合えず通常の意思疎通であれば、中学港からの教育でも何とかなるというのは、自分の経験からそう思います。
話の本筋とは関係ないですが、英語教育の早期化を、日本人のアイデンティティと結び付けて語るのも気持ち悪い気がしました。
Posted by 三井 at 2018年10月12日 08:27
言いたいことはわかるのですが、別の問題とごっちゃになっているのかなって思いました。
アイデンティティって、人がよって立つものなので、個別にしっかりと持てばいいのですが、概して日本人はしっかりしたアイデンティティを持てない=自信がないので、他の強いものに自分を重ねあわせたいのではないかと思っています。それが、「強い日本」だったりして、とても気持ち悪いのです。
英語教育はもっと別かとは思います。ただ、言語とものの考え方ってつながっているので、幼児期から二つの言語を学ぶと混乱する、という話は聞いたことがあります。でもまあ、それもひとつのあり方なのかもしれません。
 それと、英語を学ぶことは、いつでも日本を出ていくことができるという意味で、必要かと思っています。若い世代に日本の劣悪な雇用環境を押し付けたくはないのです。
 そんなことが、いろいろからみあっているような気がします。
Posted by 本橋恵一 at 2018年10月12日 08:35
宋さん、おはようございます。いつものヘソ曲りです。

今朝の宋さんの『アイデンティティ論』は、個々人に関する限りある程度容認できます。

しかし、今の世界の“国家”の潮流は、宋さんのご意見とは全く逆の方向に流れていると思います。
米国トランプ政権の“アメリカンファースト”、中国習近平政権の“覇権主義”、ロシアやシリア、サウジアラビア、北朝鮮等の過激な独裁国家、英国のEU離脱等々、枚挙に遑がないほどではありませんか?

『アイデンティティとは家族と友人から受けた影響で自然に形成するものです。日本人の家庭に生まれた以上、その文化に自然に染まるのです』とのことですが、宋さんは何を仰りたいのでしょうか。冒頭の華僑の話や華人の話と並べて読むと、「華人はこんなに優れたアイデンティティを持っているのに、日本人はなんと狭小なのか」とでも仰りたいのかと穿った見方をしてしまいます。
Posted by 田中 晃 at 2018年10月12日 08:41
いつも楽しく拝見させていただいています。
ありがとうございます。
誤解を恐れず完結に記載させていただきます。

宗さんのおっしゃるような、良いアイデンティティも悪いアイデンティティもないと思っています。アイデンティティについて良い悪いを言い出すと根深い対立が発生します。

日本人のアイデンティティが曖昧に映るのは、それが生活そのものだからだと思います。
手を合わせていただきますという。お米にも7人の神様がいるとなんとなく母親から感謝の気持ちを教わる。自然には神様がいるとなんとなく感じるような幼少期を過ごす。
約半数に近い中国の方が、近年日本に対して好感を持っていただけるようになり、その理由の一つに民度という言葉が出てきます。私たちは民度を意識しながら暮らしているわけではありませんが、幼いころに両親から教わった、人様に迷惑を掛けずに、自然に感謝して暮らす心が、日本能力アイデンティティなのかなと思います。かなり内向きのものですよね。だから他国には理解しにくく、自分たちにもそれがないように感じてしまう理由なのかなと思います。
Posted by 澤本茂郁 at 2018年10月12日 08:47
英語のアイデンティティは単なる「識別すること」に過ぎない」と言ってしまうのは言い過ぎではないでしょうか。

人やものの正体、身元、その人が誰で、そのものが何であるかということを表す性質や条件。
〔ある人やものが持つ他と異なる〕独自性、固有性、アイデンティティーであって、識別するのに大事な要件をさしていると思います。
Posted by 三井適夫 at 2018年10月12日 08:51
アイデンティティと言っても人によって定義は異なるでしょう。
例えば、
アラブ人:アラビヤ語を話す人
ユダヤ人:ユダヤ教徒
イスラエル人:イスラエル国籍の人
この定義では、3つ全てを満たす人たちが多数現存しています。このような人達はアイデンティティは何と考えるかは、その人しか決められないでしょう。勿論、複数を考える人もいるでしょう。
アイデンティティの問題は、答えは無くて各人が決める以外ないでしょう。
Posted by 旧旧車 at 2018年10月12日 13:15
中国という名称には国が付いているし、確かに国家機関も国境も存在するのですが、中国という存在は、国という概念で理解するべきではないと思っています。
世界、中華世界なのだと思います。
日本人の民族感覚、国家感覚では、中国も中国人も理解できません。
国家よりも大きな世界なのです。
地球全体も世界と言いますが、その広がりの一段階下に、いくつかの地方世界が存在しているように思います。
中華世界、インド世界、アラビア世界、アフリカ世界、ヨーロッパ世界、アメリカ世界、ラテンアメリカ世界、大雑把に言って七つの地方世界がある気がします。
中国人は、中華世界人なのです、中華文明人なのです。
日本人は、日本人であって、日本文化人です。
決して、日本文明人ではありません、日本文化と言えても、日本文明とは言えません。
日本は、漢字と、漢字から派生した平仮名と片仮名を使います、今の若い人は少なくなりましたが、中国の歴史古典素養を身につけています、確かに、中華文明の影響下にある一派生した日本文化の民族なのです。
アイデンティティという言葉の意味がよく理解できないので、その話題に踏み込めませんが、中華文明を身につけた中華人は存在すると思います。
ただ、今の中国は、国家機関のとしての中国を強化維持するために、愛国教育と愛国心の鼓舞に力を入れています。
国家としてのまとまりが必要だからです。
その国家としての統制に嫌気がさす、宋さんのような中華人がいてもおかしくありません。
実力さえあれば、国境を無視して生きる方が、はるかは自由を楽しめます。
アメリカ世界は、他の世界と比べると異質な、雑多な混然としたごった煮状態の、新しい世界ですから、色んな地方世界の要素が混合されながら、まだ、熟成化合しておらず、共生共存している状態でないかと思います。
英語という言語ツールとしてはとても便利な言語を身につけていさえすれば、中華人として、アメリカ世界で生きることは、実力ある経済人としては、恐らく最善の選択かと思います。
だから、宋さんはアメリカに軸足を置いているのではないでしょうか。
Posted by 藤田 備 at 2018年10月12日 14:57
アイデンティティの形成のお話は概ね同意なのですが今回の文章は他の方からもご指摘のある様に他の話とごっちゃになってる様な印象受けました

また個人的には日本人としてのアイデンティティが形成されてないのに…云々とか言う人に会った事がないです

今時の子育て世代ぐらいの年齢の人ってそういう意識あるかなぁ…というのが正直なところですね
もしそんな事言う人居たら多分年配の方なんじゃないでしょうか
ある程度から下の年齢の人がナショナリズム感じるのってW杯とかその手のイベントの時であって
アイデンティティがどうのとかて言う人に会ったら多分私は引いちゃいますね…

恐らくサンプルセレクションバイアス的なものがかかってると思います
比較的そっちに偏った方と面識があるとか
そういう事言う人の印象が強く残ってるとかそういう事ではないかと
Posted by 通りすがり at 2018年10月12日 17:45
個人的には、日本人がそんなに「アイデンティティ」を口にするという認識はありません。
皆さんご指摘の論旨の不明確さは、宋さんがまずは日本(人)を貶したい、というところからスタートしているからだと思います。
毎度のことながら、日本人は国際性がない、視野が狭く自分たちだけで群れたがる、ということ(否定はしません)を非難する新しいキーワードを見つけた、というだけのことだと思います。
Posted by H.Mari at 2018年10月12日 18:30
冒頭から「私の記憶では中国人からこのようなアイデンティティ論を聞いたことがありません」との実に率直な意見を述べている。まさにその通りであろう。

慣習や伝統と呼ばれるものがなぜ生じて、どう変遷してきたか、自国の歴史がどのようなもので、どのような価値観の上に形成されてきたか、他国と比較してどうなのか、正しく教育されることもなく、たった70年の歴史かもたない政府によって一方的に洗脳されて来た人民に、アイデンティティの意識などないことを率直に述べただけ。との感想しか生じませんでした
Posted by 水戸のご隠居 at 2018年10月16日 21:18
ペンス米副大統領 対中方針演説
https://www.youtube.com/watch?v=bmgSFzIyDZs
には、米国の中国に対する見方がモロに反映されており、かつそれに日本国民の大半は賛同するであろう。日本国民が米国に洗脳されているからでも、日本がかつて日米貿易戦争で辛苦を味わったからでもない。

むしろ、文化でも食生活でも影響を受けてきた日本国民であるからこそ、いまの共産党独裁政権が常軌を逸し、思い上がった中国人の欠点をすべてさらけ出している姿に愚かさしか感じないからである。

かつて親しみをもって接した中国が憎悪の対象になっている姿は、同じ東洋人として、さびしい限りですが、それ以上の感情はわかない。




Posted by 水戸のご隠居 at 2018年10月25日 12:26
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