大理での出会い

この秋から、米国の大学に在学中の長女が、14人のアメリカ人同級生とともに上海の復旦大学に留学しました。今日の宋メールは彼女に書いてもらいました。
(宋文洲)

大理での出会い

宋 紅叶

一週間ほど前から大学の交換留学で上海に来ていた私は、プログラムの一貫として中国雲南省の大理に訪れました。引率する教授が選んだ宿はリンデン・センターと言って、古くからの大理伝統の建築物をそのまま利用した素敵なホテルです。

到着した夜、教授が私たちをホテルのロビーに集めると背の高い優しそうな白人の男性がやってきました。旅行客かと思いきやなんと彼がこのホテルのオーナーだというのです。

彼はブライアン・リンデンと言ってシカゴの貧しい家庭で育ちました。18歳の時から掃除の仕事を始め、その稼ぎで夜間大学に通っていました。ある時、彼は貯めたお金で中国へ旅行に行きました。それが彼と中国との縁の始まりでした。

旅行を通じて中国に興味を持った彼は試しに中国政府の全額奨学金を申請してみると、なんと成功しました。1985年にブライアンは晴れて中国政府の招待で中国の大学で勉強を始めました。当時としてはとても珍しいことでした。

留学中の彼は米国CBSの報道カメラマンとしてアルバイトを数年間やりました。その経験から中国の魅力、歴史の深さを感じたと同時に、世界の中国への理解の浅さにも気づいたそうです。

中国の大学を終えた後、ブライアンはスタンフォード大学の全額奨学金をも獲得し経済学部を卒業しました。そのキャリアがあればアメリカでそれなりの収入を得て不自由のない暮らしもできましたが、彼はチャンスをくれた中国に恩返しをしたい一心で中国に戻ったそうです。

その後、中国の文化遺産を守る手伝いがしたいと、大理の国家文化遺産財に認められている土地に外国人として史上初めてホテルを建てることに成功しました。その他にも、彼は中国全土で中国政府と協力しながらいくつかの施設をデザインしています。

全ての施設は地元の人をスタッフとして雇い、レストランで使用されている食材などは全て地元のものを使用しているそうです。なぜなら、彼は国家文化遺産として認定されている土地の特色を守り続けながら、旅行者にもその美しさを味わってもらえ、地域も活性化させられるようなコミュニティーを作ることに人生を賭けているからです。

ブライアンの人生に私が深く惹かれたのは、彼の目には私が見たことのない中国が見えていたからです。日本で生まれ育ち、高校からアメリカで教育を受けている私は、中国人ながらも中国についてしっかりと学んだことは無く、世界が持っている中国へのステレオタイプというフィルターを通して中国を見ていました。

しかしながら、ブライアンの経験、そして中国への思いを聞いて、恥ずかしながらも自分よりもブライアンの方がよほど真の中国人だと認識しました。また、私の父も中国政府の奨学金で日本に留学したということもあり、ブライアンと父の人生に共通点をたくさん見つけました。

父がよく「中国政府からの恩は返しきれない」と私に話してくれましたが、アメリカ人であるブライアンの口から同じ言葉が出た時、私は何かに気付かされた気がしました。私が中国に対して持っていたネガティブな視点はただの偏見でしかなく、私自身で中国についてきちんと学ぶ必要があると気付かされたからです。

私は今大学で経済を専攻しています。私からすると、経済の授業には他の科目では無かった面白さ、そしてやりがいがあり、将来はビジネスの世界で何かをしたいと考えています。アメリカの大学の授業では中国の経済についてよく話しますが、中国社会の変化とグローバル化について触れることはありません。

変貌を遂げる中国社会についてブライアンは、「今の中国にはビジネスチャンスを生かし大金を稼ぐビジネスは沢山あるが、I want to be a dreamer, not only a businessman」と言っていました。

私はその通りだと思います。私が将来どこに住み、どんな仕事をするかはわかりませんが、ブライアンのように、損得よりも夢を持って生きたいと思います。
この記事へのコメント
「アメリカ人から見た中国」をこれほど本質的に語った話に初めて触れることができました。
Posted by 藤原洋 at 2018年08月31日 08:21
貴重なお話をありがとうございました。
常々思うことですが、日本人ももっと中国をちゃんと理解し、
さらにはアジアが一体となって友好的に交流していくべきだと感じました。
Posted by Iida at 2018年08月31日 08:49
大理での出会いを読み感動しました。私もいろいろな人に世話になりながら「恩」を感じながらも自分本位の生き方をしてきましたので、改めて気づかされました。残る人生を悔いの無いように「恩」を返しながら生きていこうと思います。お恥ずかしいですが、若い方に諭されたようです。ありがとうございます。
Posted by 柴田秀孝 at 2018年08月31日 08:50
ただただ感動し拝読しました。日本で子どもたちの教育に携わっています。人生後半戦にヒントを頂いたように思います。
Posted by 荒屋剛志 at 2018年08月31日 09:03
この感覚、素晴らしいです。私は大連周辺のホタテ養殖の会社のスタッフや、友人、そのご家族との交流を続けていますが、お互い裸のお付き合いをさせていただいているつもりです。
政治的な話となる場面もありますが、本音をこっそり打ち明けあったり、経済的な話となると、お互いの意見を交わしたりと正直に向かい合っています。体制を超えた友人同士として、これからも深くお付き合いを楽しみたいと思います。
Posted by 工藤聖也 at 2018年08月31日 09:05
ブライアン氏と筆者の情熱が伝わってきて感動しました。
Posted by カズノ at 2018年08月31日 09:08
宋 紅叶さんの文章は勿論、その感性はすばらしく感心しながら読ませていただきました。お父様の才能をそのまま受け継がれているようですね。 将来は、是非とも、日本、中国、米国の3つの異なる文化圏の橋渡しとなるような活躍を期待しています。
Posted by Tasuke at 2018年08月31日 09:13
なるほど!!自称アメリカ人の彼は中国の闇には目をつむり続け、
今や立派な中国の犬と化したんですね!
おめでとうございます!
そのまま居続けて中華帝国の落日を見続けてください!!
Posted by kann at 2018年08月31日 09:16
宋さん、おはようございます。いつものヘソ曲りです。

今朝のお嬢様のコメントはそのまま受け取らせていただきます。お嬢様のコメントの最後の文節『私が将来どこに住み、どんな仕事をするかはわかりませんが、ブライアンのように、損得よりも夢を持って生きたいと思います』を全うされますことをお祈りしております。

なお、先のメルマガで小生が塾通いにタクシーを利用できるのは富豪の証という趣旨を申しましたところ、上海ではタクシーは高価ではなく日常当たり前のように利用しており、塾の送迎にタクシーを使うのは贅沢でも何でもないとのご意見がありましたが、2017年の中国の一人当たりGDPでは北京と上海が5万3000ドルであるのに対して貴州省、雲南省、甘粛省のそれは1万ドルを下回っています。

約4億人の都市部では9割が高校進学をしているのに対して、約9億人の農村部では6割が高校進学ができないというアメリカ・スタンフォード大学の調査結果があります。

それでもタクシーで塾通いする上海の子女は富豪ではなく標準の生活と断言されるのでしょうか。
Posted by 田中 晃 at 2018年08月31日 09:33
宋さんの「中国政府からの恩は返しきれない」という部分にはちょっと意外な感じを受けましたが、(私の頭の中で、宋さんのお父様が中国政府から迫害を受けていたとの思い込みがありました)お嬢様のニュートラルな考え方には、そのとおりだなと思いました。
偏見に囚われないブライアンさんやお嬢様のような若い人たちが増えて、憎しみのない世界になっていけばいいなと思いました。
Posted by kinzo999 at 2018年08月31日 09:49
今回の記事は中国の良い面、つまりは、政府・行政の権益と個人の利益が同じ方向を向いた際に、良い結果が生まれるという一つの側面なのでしょう。ただ、それを評した記事の印象は「お若い」ですね、という印象です。GDPが増大しているのも事実、経済技術開発区での成功も事実、個人的には良い人も悪い人もいるのも事実、地方少数民族弾圧も事実、透けて見える侵略的野心も事実、それらすべて含めての中国です。世界の中国に対する偏見、日本の中国に対する偏見、確かにあるのでしょう。ただ、それらに支配される人は中国とはまともな付き合いが出来ず、損をする人々なのだと思います。中国を自国の尺度で信じすぎることなく、毛嫌いしすぎることなく、淡々と「自国とは意識も感覚もモラルも大きく違う隣国」として、理知的でビジネスライクにお付き合いしていくのが大切ですね。それができない人々の方が非常に多いというのは悲しい事実ですが。
Posted by おおとり at 2018年08月31日 10:00
イギリスでは6割のものが中学でおしまいにする。ワシの従兄が高校の数学の教師をしていた時日本の高校の進学率は95%、精神薄弱の生まれる割合が6%。ここで重なる1%をワシらが面倒を見んといかん
Posted by 別府有光 at 2018年08月31日 10:25
お嬢様からは、謙虚な姿勢を感じます。お父さん譲りのご性格です。この謙虚さが近い将来。成功を収める要因になると思います。益々頑張られて下さい。宋さん(親子で)、日本もよろしくお願いします。
Posted by 都倉純 at 2018年08月31日 10:43
日本人留学生は少ない(これも日本の政策)…世界が見えてない人が多いように思われ、とても残念です。
ただ、日本の江戸時代…ここには見るものいっぱいです。確かに参勤交代もあり形は中央集権だったけど、実は地方分権で、それぞれ独自に「楽しんで」ました。
今の日本の事ですが、…腐りきった中央官僚に、官僚にとっておシメシメ♪政権が、長いこと「お受験勉強」で自分の考えなんてものを育てないでしまった国民を騙して 利権を貪ってます。
実は私も今、経済…お金って何だろう?…なんて考えたりしちゃってます。 もう、AI時代に入り、人は創造的なアイデアとかで社会威貢献するようになるのでしょう??(よくわからないけど…)
紅叶さん…どうお読みするのでしょう? どうか、ご縁のあった日本を今後も見捨てることなく、又、それぞれの夢を追いかける私達になるのを、助けて下さいませね。 
私も、紅叶さんのご活躍、楽しみに応援させてもらいます♪
Posted by 美枝子 at 2018年08月31日 10:54
紅叶さん、雲南省にいかれたのなら、永寧にまで足を伸ばされては、とおもっています。
私は、曹恵虹『女たちの王国』 草思社 を読んで、中国の大きさ、深さ、を感じたからです。曹恵虹さんも、男社会の中で生きてきて、別世界を見たように書いていました。私は、今後、世界が生き延びて行くには、母系制の考え方には多くのヒントがある、と思っています。 
Posted by 衣斐義之 at 2018年08月31日 11:21
今回は米国人のブライアン氏の話だけでしたが、明治維新後の日本においても、ウィリアムアダムス(日本名:三浦按針、)など多くの西欧人が日本に帰化して、「日欧の橋渡し」になっていたことは有名です。
さらに宋氏が言う「中国政府からの恩は返しきれない」なる言葉もその通りでしょう。
日本も明治時代、日本政府によって西欧に多くの日本人留学生が送り込まれ、帰国後、日本経済の発展に粉骨砕身して寄与した背景にある心情は、「政府の恩は返しきれない」だったでしょうから。

ただ、最後に述べられたブライアン氏の言葉「今の中国にはビジネスチャンスを生かし大金を稼ぐビジネスは沢山あるが、I want to be a dreamer, not only a businessman」は意味深ですね。
私もスタンフォード大学に留学して最新の米国IT技術を身に付け、中国に帰国してその事業化に向けて政府に多大なる援助を受けている中国の若者を知っています。
しかし、アメリカでは実現するかもしれないAmertican dreamが中国で実現するかについては懐疑的です。 

夢を見続けられる社会は、どのような社会かを考えれば言わずもがなです。
「人の役に立ちたい」「自分の思う通りに行動したい」が、その根底にあって、あのビルゲーツもスティーブジョブスも、そんな夢を叶え、結果として億万長者になったのですから。
Posted by 水戸のご隠居 at 2018年08月31日 12:02
紅叶さんの文章がとても自然な筆致なので、若い女性の新鮮な雰囲気を感じました。日本語、英語、中国語などを巧みに使いこなしているようで、たいへん羨ましく思います。
Posted by 原口輝希 at 2018年08月31日 14:36
宋さんもお嬢さんも素晴らしい人生を過ごされているのを実感しました。
そして、中国の富裕層達が金を更に増やすことに血眼になっている事も事実ですね。
そして、更に大多数の貧困層が命を危険に晒しながら必死で生きているのも事実です。
これらはすべてが真実でしょう。中国は大きいし、多いし、多様ですね。
勉強になります。有難う御座います。
Posted by 旧旧車 at 2018年08月31日 14:52
素晴らしい体験ですね。大変感動しました。
Posted by 大田垣 吉展 at 2018年08月31日 15:57
紅叶さんの世代から新しい日本との交流に夢が芽生えることを夢見ます。周恩来さん時代以来のお付き合いですが、紆余曲折の世紀でしたから・・。
Posted by 箭内克寿 at 2018年09月01日 14:52
お嬢さんの素朴な感想と宋さんから引っ付いた影響に感動!感動!感動!
Posted by 宋 立青 at 2018年09月02日 15:33
大変貴重な「大理での出会い」を読ませてもらいました。リンデンさんの心意気の高尚さに脱帽しました。私は74歳のじじいです。私は今、アフリカのことを猛勉強中です。そのきっかけは、図書館で読んだアフリカの報告書でした。南アフリカのンコシ少年の記事でした。11歳の彼はエイズに
かかっていました。その彼が国際会議の場で「僕は完全なエイズです。でも普通の人間です。普通に生きたいです」と世界に訴え、その1年後に亡くなったそうです。アフリカの子供たちの惨状を知り、ある決心をしました。アフリカの子供たち、ひいては世界の子供たちが、笑い転げる童話を書くことです。子どもたちが笑えば大人も笑います。これが私の小さな夢です。お嬢様の活躍を祈念します。
Posted by 羽石 邦夫 at 2018年09月02日 15:37
いつも楽しみに拝見させて頂いております。
今回はお嬢様でしたね。
ひとりの父親でもある私は、宋さんが娘さんをとても素敵な方に育てられたなとまず思いました。
そしてひとつの出会いでこれからの彼女の行く末が大きく良い方向へ変わっていくと感じました。
何が一番大事で、何を大切に過ごしていくかの判断軸を持っておられる、彼女の今後が楽しみですね。
私も見習って、少しでも恩返ししていきたいと思っています。
フラットな視点を常に持って、是々非々の判断を入れて、
中国と今後もお付き合いしていきたいと考えます。
次は奥様も登場期待致します。
Posted by 松田 務 at 2018年09月02日 16:40
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