トランプ氏はなぜ破壊を行うか

TPP合意、パリ協定、ユネスコ、イラン協定、国連人権理事会・・・トランプ氏が大統領になって以来、米国は西側社会が大切にしてきた合意や組織から次々に離脱しています。トランプ氏は当選前から英国のEU脱退を支持し、最近ではフランス大統領にEU脱退を勧めています。そしてG7とWTOを含む既存国際体制のほぼ全てに不満を持っています。

トランプ氏が中国との貿易戦争を起こすのは理解できますが、EUやカナダや日本にも処罰性関税をかけるのは私でさえ不公平だと思いました。米国で生活してみると分かるのですが、米国製で魅力のある製品は本当に少ないのです。日本とドイツの車に高い関税をかければもっと売れるのは米国車ではなく韓国車でしょう。それよりも既に高い生活コストの更なる上昇に消費者が離反するでしょう。

トランプ氏に「狂気、強気と不安定」のイメージを持つ日本人が多いと思いますが、当のトランプ氏は今、当選後の低支持率から脱出し、じりじり支持率を上げてきました。彼の一貫した姿勢と政策が米国民の支持を得ていることはその支持率の上昇によって証明されているのです。

トランプ氏の政策が米国を再び偉大にすることができるかどうか、正直私には分かりません。中国がライバルとして狙われたからと言って彼の失敗を期待するような見込みとコメントは自戒したいと思います。日本人を含む米国以外の国々にとって一番大事なのは米国の社会深層におけるこの変化への対応です。

共和党だけではなく、民主党も移民問題や自由貿易に対して姿勢をどんどんシフトしていることに日本人は気付くべきです。たとえば、最近話題になっているハーバード大学のアジア系アメリカ人への差別問題です。米国国民であってもアジア系というだけの理由で不公平なパーセンテージ制限を受けるのです。これに共和党だけではなく民主党の有力議員も賛成しているのです。

米国に幻想を抱く一部の日本人は「それは中国系や韓国系への制限だろう」と思いたいでしょうが、中国人と韓国人と日本人の顔は彼らには同じに見えるし、そもそも同じ米国国籍なので先祖はどこからきているかの情報は求められていません。顔で「アジア系移民」を断定しているのです。

前々回のメルマガでトランプ氏の本を紹介しましたが、今回はトランプ氏の昔のテレビ出演について紹介します。当時の対日赤字についてトランプ氏がテレビ番組で怒りを語っていました。「・・・米国は日本に機会を与えているが、日本はあらゆるものをダンピングする。これは自由貿易ではない。東京で何かを売りたいならあきらめた方がいい・・・」と激しい口調で語っていましたが、「日本」を「中国」に置き換えればそのまま現在の彼の中国批判になります。よくも悪くもトランプ氏は昔から変わっていないのです。

変わったのは米国民です。大半の米国民がトランプ氏の主張を受け入れるようになったのです。

私はオバマ時代からTPPは成功しないと言ってきました。理由は「中国包囲」との宣伝文句ではなく、米国内の反応を知っているからです。米国人の多くは中国との貿易赤字が米国以外のTPP加盟国に移し替わっても何の意味もないと考えているからです。何回も言いますが、貿易の基本原理は損得です。長い間、「自由貿易」で損してきた米国がそれを拒否するのは時間の問題です。

いつの時代でも「自由貿易」とは儲かる国のセリフなのです。

米国は余裕がなくなってきたことを日本人や中国人よりも米国人自身が一番実感しています。余裕があったから国連、G7、NATO、WTO、IMFなどを好きなように操れたのです。しかし、国際組織を纏めるには援助や市場開放などのコストが必要なのです。国力が相対的に落ちた米国は金融危機以降にその無駄に気付き始めたのです。既存のシステムを果敢に破壊し、その中から新たな覇権を模索する米国の勇気に感服せざるを得ません。

中国語には「不破不立」という言葉があります。既存の社会システムに不満があればまずそれを破壊することです。破壊しない限り、自分たちに有利な新たなシステムを打ち立てることは不可能なのです。

数十年後、トランプ氏はアメリカ帝国を再び強固にした偉大な革命家と言われるか、それともアメリカの衰退をただ加速させただけの人物になるのかは分かりませんが、私達は自分に都合の良いように思い込むミスだけは避けるべきでしょう。

しかし、トランプ氏が既存のシステムを壊した以上、新たなチャンスは皆にあるのです。適応能力のある人にとって「壊されてもよし、壊されなくてもまたよし」です。これが企業家精神なのです。
この記事へのコメント
アベ批判のない宋メールはいいですね!今回の記事はまさしく金言だと思います。
アメリカ自体の変化、という視点はさすがだと思います。ただ今さらエントロピーを小さくするような動きはうまくいかないと思います。
Posted by ひろちゃん at 2018年07月06日 08:12
いつも、参考になるお話し有り難う御座います。
日本人が気が付かない事、ズバリお話し頂き有難う御座います。
これからも、よろしくお願いします。
Posted by Tadashi Ohmi at 2018年07月06日 08:28
宋さん、おはようございます。いつものヘソ曲りです。

トランプ政権の米国と習近平共産党政権の中国とは、とてつもなく似通ってきています。どちらも「アメリカ第一」「確信的利益」との主張で自国利益一辺倒で、”力ずく”で他国を跪かせようとしています。まさに『覇権争い』そのものです。

昨日のニュースで、マレーシアが一帯一路推進の一環として進めていた”シンガポールとの高速鉄道”計画の廃止を決めたと報じられました。以前から小生も指摘していた、AIIBを介して資金を貸し付け途上国を借金でがんじがらめにする習近平中国共産党政権の目論見に気が付いたと報じられています。

強大な中国が弱小国を力で捻じ伏せる構図はモルディブの悲劇で実証されています。

この習近平中国共産党政府が進めているやり方と、今日、宋さんがこのコラムで仰っておられるトランプ米国政権の”破壊活動”とに違いがあるのでしょうか?

米国、中国は世界を牽引する二大国家です。この二大国家が”自国優先”を揚げて、世界に君臨しようとすることにこそ真の危険があると考えます。

宋さんが安倍政権や米国を批判する際に、習近平中国共産党政権をも等しく批判されることを望むものです。
Posted by 田中 晃 at 2018年07月06日 09:10
毎度おなじみの「日本人は何もわかっていない」という上から目線のコメントですが、的を射ている部分もあり参考にさせていただきますし、表現が穏当なので批判はしません。
ただ、「中国がライバルとして狙われたからと言って彼の失敗を期待するような見込みとコメントは自戒したいと思います」という姿勢をすべてにおいて示してほしいと思います。
同様の読者意見もみられますが、例えば人格否定表現であることを自ら公言して「アベ」という呼称を使うことは宋さんご自身の品格をも貶めるものです。ツイッターは便所の落書きだから何を言っても良い、というのは勝手な解釈です。
批判は批判として歓迎しますが、最低限のマナーは守ってほしいと思います。
Posted by H.Mari at 2018年07月06日 09:14
アメリカの全盛期は1965年位までで、ベトナム戦争に突入すると徐々に国力を奪われていきます。この辺りまではアメリカの生産性も高く、製品は他国より優れており、日本でも舶来品として貴重がられていました。今、ホワイトプアと言われる人たちの全盛期でしたが、戦争に無駄に人材が消費される中、能力の改善や生産性の改善は遅々として進まず、ドル高政策を取ったため、国民は他国から安く優れた製品が輸入されたことにより、ぬるま湯の中で豊かな生活を楽しんできたのです。ドルは輪転機を回してすれば良い!余ったドルは戦争で他国民と一緒に焼けばよい!MicrosoftもGoogleも実態は移民、他国の人材が取り仕切っています。トランプ大統領はホワイトプアの反乱に担がれた大統領であり、カラードのオバマは絶対に許せない存在だったと考えられます。従って、彼が行った政策は全て反対だし、日本に対しても腹の中では容赦は絶対しないでしょう。私は以前、デンバー出身の上司が同じような性格であった事を思い出しています。このような人が成功することは無いでしょう。北朝鮮との協議も上手くいかないでしょうが、自分の犯した間違いを認めることは絶対無いでしょう。
これはアメリカのダイナミズムではありません。ただ単なる反動です。何時か正常に戻ると思います。アメリカにはその復元力があり、それが魅力だからです。
Posted by 都田隆 at 2018年07月06日 09:25
そうなんですよね
アメリカの今の価値観は特に地方になる程急速に右傾化していてアメリカ自体が変わってるのは正に同意です

私の知人もトランプに入れるのはまずいのはわかっていたので随分迷ったけどヒラリーでは何も変わらないのでトランプに入れた言ってました
彼は非常にリベラルで差別は大嫌いですし奥さんは日本人です
奥さんはアメリカでやはり差別を少なからず受けてるようです
勿論永住権がありますがそんなの関係ありません

それでも彼はトランプに入れざるを得なかったというのが今のアメリカの現状という事ですね

やり過ぎた資本主義アメリカですがその内バランスがまた取れるのでは?と思いながらも、こちらは柔軟に対応出来る様にするだけだなと言う感想です

だってビジネスはどこにでも何かしらのチャンスがあるんですからね
Posted by 通りすがり at 2018年07月06日 09:50
帝国は無くなって世界は多極化に向かうのでは?
そして商売人トランプさんにとって、軍産さんは邪魔なんじゃ??(北朝鮮にもトランプタワー♪? 資源も豊富って) ただ、軍産さんはなだめとかないといけないから、日本に武器を売りつけたりして…。
(↑私、日米安保もやめたかった。日本の為にアメリカが中国なんかと戦うなんてあり得ないし、却ってテロを呼び込みそうで…)ただ、〜アメリカさんがこう言ってきてるから…〜て言えば日本市民は、なら仕方ないってすぐ納得するから、外務省など特に、アメリカを虎の威として、利用してきたんじゃないか…と? 
話がそれて済みませんが、わたし、食糧やエネルギーの自給自足にも向かいたい。間に合わなくて地球脱出になる時の宇宙開発も。(トランプさん、軍産さんへの目くらましに宇宙軍とか言ってますけど、本当は宇宙ホテルなんかを考えてるんじゃ?)
江戸時代までの日本人も(多分 世界の、安心の暮らしを享受できた人達も)それぞれ色々な仲間達と遊んで?楽しんでたと思います。俳句や歌舞伎、物理や天文学…(科学も一種の遊び?)軍産さんなど「お金儲け」より、皆がそこそこの安心の暮らしを楽しめるように…どうか宋さんも、ペシャワール会などの「大地の緑化活動」を応援して下さいね…話を大きく逸らせて、勝手なこと書かせて頂きました。 済みませんでした。
Posted by 末永美枝子 at 2018年07月06日 11:02
ずっと拝読させていただき、ありがとうございます!
今回のブログを読んで、目覚めたように納得でした。

いつも客観的に視野広く世論を読ませて、自ら商品開発、市場開拓などで事業経営も行った経験を活かした、知的な視点が多く見られます。毎回楽しみにしています。
Posted by Fan at 2018年07月06日 11:17
「不破不立」全世界の人材にとって、とても大切な言葉です。国民教育の成果で日本人の受身体質の顕在化が新たな日本人人材の育成に大きな影を落としている現在、この言葉を日本人がどう受けとめるか、また、世界の潮流を読み解かせる仕組みをどう導くか、これが日本人の第一線で働く人材に求められているかと日々実感しています。

米国民の意識変化には、世界が何を求めているか、を考えさせられます。ASEANが著しく成長しつつある事実を踏まえて、我々日本人は何をどうすべきか、日々考えています。

いつもですが、今回の内容からも多くの示唆を頂戴しましたことに御礼申し上げます。ありがとうございます。
Posted by 袴田 達雄 at 2018年07月06日 12:46
トランプ大統領はアメリカの原理に忠実な人だと思っていました。モンロー主義者です。
同様に安倍首相も自分の原理に忠実な人だと思います。安倍首相の原理は「自立した国家としての憲法と国防」です。
この二人は近視眼的にみるといろいろ壊しているように見えますが、どちらも原理に忠実に行動しているだけなのではないでしょうか。
Posted by マチス at 2018年07月06日 17:06
いつも有難うございます。

トランプ大統領は支持層からの支持に確実に
応えているだけなので、仰る通り、やれる
ところまでやってもらう中で、持ち場立場で
採れる行動を採るしかないでしょうね。

安倍首相についてはノーコメント、ですが、
この時期に首相でいて個人としては大変で
しょうね。。

次回も宋メール、楽しみにしています(^^)。
Posted by sparerib at 2018年07月06日 20:39
トランプ大統領は米国の派遣を壊し、多極化をの世界を作るように本気で動いていると思っています。戦後冷戦構造を作り、英国、米国が主体で動かして来ましたが、冷戦はレーガンが壊しました。今回はトランプが壊す番ですね。の本は戦々恐々だと思います。軍産関係を壊すパワーは大変だと思います、
Posted by mineo honda at 2018年07月07日 21:24
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