人間は何のために働くのか

ボストンのサービスアパートに入居して二週間経ちましたが、全く落ち着きません。昨日までの三日間は5時間のフライトでユタ州に行って来ました。モノを思う余裕がないので宋メールを書けませんでした。

ちょうど週刊文春の連載が終わったのでそのご報告を兼ねて4月26日号に掲載れた「それでも社長になりたいあなたへ」の寄稿文を転載させてください。


人間は何のために働き、生きているのか――。この連載における大きなテーマでもありますが、「命があるから」と答えても誰も納得しないでしょう。

若い頃に私は「中国を変える」という夢を抱いた時期があります。実際、数カ月、北京で中央政界入りを探ってみました。しかしあまりにも汚い政界の実態を目の当たりにして、やっぱり経営に打ち込もうと思い直しました。このように一つの目標が消滅し、別の目標が生まれることもよくある。人生の目標と関係なく、人は働いて生きるのです。

今年二月のチベット旅行で、千キロ以上にわたり、五体投地をつづける青年と話しました。一年以上同じ動作を繰り返してきた彼の顔には希望と平和が満ちていました。漢民族のドライバーが彼の姿を見て、「この根性を商売に投入すれば大金持ちになれるのに」と言うと、観光ガイド役のチベット族の女の子から「あなたは可哀そうな人ですね」と冷たい目で見られていました。

三十代の頃のことですが、宗教で幸福感を得たいと思って、キリスト教を勉強したことがあります。ただ勉強すればするほど疑問が増えていく。そして神父さんから「宗教はまず信じてから理解するもの」と言われたとき「これは無理だ」と諦めました。私は頭で理解していないことを信じられないからです。

ただ私が事業でどん底状態のときに、神父さんの言葉が救ってくれました。

「航海で暴風雨に遭遇したときには、海に浮かぶ小瓶を作りなさい。そして、その中に入ってしっかりと蓋を閉めなさい。瓶の外は荒れていても内側には平和と陽光が溢れるでしょう」

人生には心の避難所が必要です。その避難所が宗教などの“既製品”でも、自ら編み出したものでも、それは自由です。

人間はチャンレンジすればするほど、その分、苦難も増えます。壁に向かってボールを強く投げれば、同じ力で跳ね返る「作用・反作用の原理」が働くのです。

立派な仕事をして周囲が羨むポジションにつく。経営者となり、会社や社員に大きな利益をもたらす。こうしたいい仕事をすればするほど、逆に人生の苦しみが生まれる。「それでも社長を目指す」皆さんには、このことをよく理解して欲しい。

私は最近よく妻と二人で旅行を楽しんでいますが、経営者時代は大勢の同志や部下に囲まれても、常に孤独感でいっぱいでした。

今は日々の予定が入っていなくても楽しく過ごせますが、かつては半年先まで予定が決められ、ロボットのように働いていました。そんな時代があったからこそ、今の状況がどれだけ恵まれているかが理解できます。

仕事の現場で恐れながら前進する。心配しながら着手する。失敗を前提に勝利を夢見る。そんな経験を繰り返しているうちに、人間は金銭や地位に頼らなくても自信をもって生きていけるようになります。また不思議なことに、金銭や地位は、無欲なときに向こうから勝手にやってくることが多いのです。

前回、「私は自由を得るために経営者をやめた」と書きました。ここでいう「自由」とは何度もチャレンジし、失敗を乗り越えて得られた心の自由です。皆さんも全力で仕事に打ち込み、「自由」を手にして欲しいと思います。

今回で連載はひとまず終了です。またどこかでお会いできる日を楽しみにしています。

(週刊文春4月26日号「それでも社長になりたいあなたへ」より転載)
この記事へのコメント
せっかく自由の地に安住されたので、面白い議論を期待していたのに残念ですね。
でも、奥さんや御家族との時間も大切ですから、宋さんらしい生活をお過ごしください。
Posted by 旧旧車 at 2018年05月25日 08:14
宋さん、おはようございます。いつものヘソ曲りです。

ここしばらくコメントを述べておりませんでしたが、今回でひとまず終了とのことですのでコメントを投稿させて頂きます。

このところ、以前に比べて習近平共産党政府のコメンテータとしか思えない論調が続き、読者のコメントも”ヨイショ”投稿ばかりでしたので、ヘソ曲りとしてはコメントすることさえ馬鹿らしくなって控えておりました。

今回の宋さんのコメントは何か吹っ切れたものを感じさせる内容になっており、習近平共産党政権というか習近平独裁政権の野望に気づかれたのか、『何のために働くのか』という言葉を借りて『何のために生きるのか』と自問自答されているものと解釈しました。

そして、それがこのメルマガの最終稿とされた結論だったのだと捉えています。

今後の、「中央政界に打って出る」等という邪念を捨てた宋さんのご活躍を祈念しております。

これまでの失礼の段、ご容赦ください。
Posted by 田中 晃 at 2018年05月25日 08:45
いつも楽しく拝読させていただいております。
下記の記述がありましたので、コメントをさせていただきます。


"三十代の頃のことですが、宗教で幸福感を得たいと思って、キリスト教を
勉強したことがあります。ただ勉強すればするほど疑問が増えていく。
そして神父さんから「宗教はまず信じてから理解するもの」と言われたとき
「これは無理だ」と諦めました。私は頭で理解していないことを信じられないからです。"

多くの男性は、理解してから次に進むものだと思います。しかし、キリスト教に関しては体験を通して、信仰を持ち、そして聖書を理解する順序となります。

現在ボストンに居られるとのことでしたので、勝手ながらお近くの教会を検索させていただきました。もっと自由になりたいと思われるなら、ぜひ訪問していただけますでしょうか。

United Pentecostal Church
Zita Hogan
Massachusetts-Rhode Island District
1725 Washington Ave, Chelsea, MA, 02150
508-612-3734

よろしくお願い申し上げます。
Posted by 佐藤和森 at 2018年05月25日 09:15
追記をさせていただきます。

被創造物である人間が、創造者である神を完全に理解することは出来ません。そのような能力は被創造物には与えられていないからです。

従いまして、まず唯一の神を体験することが必要です。そうすると信仰が得られます。信仰が得られると少しずつ創造者のことを理解していくことが出来ます。

差し出がましくコメントをさせていただき、失礼いたしました。聖書にある言葉を最後にご紹介させていただきます。

「真理はあなたがたに自由を得させるであろう」
Posted by 佐藤和森 at 2018年05月25日 09:45
宋さん、長い間有難うございました。
これからも折に触れて寄稿下さいね(^^)。

地位・おカネと名誉、名誉が先に来るらしい
のと、名誉とおカネを混同させないかが、
非常に重要な点なのと両方あるようです。
磁石に電流流してはいけません、磁石が
あることで周辺の鉄や部材に電流が流れる
から明かりが灯るんだと思います。
どこかでお逢い出来る日が来ることを願って。
Posted by sparerib at 2018年05月25日 09:58
ン?いくつかコメントがついていますが、「連載終了」は文春への寄稿についてですよね?
メルマガも終了されるならともかく、継続されるのであれば、矛盾や印象操作等については今まで同様指摘させていただきます。
もちろん、フェアな記述や個人の意見としての意見表明については批判であっても正当に評価します。
Posted by H.Mari at 2018年05月25日 10:11
理屈抜きに感動しました。
宗さん、ありがとう
Posted by たかお at 2018年05月25日 10:14
連載 最後との事、残念ですが印象的なメッセージを有難うございました。今回、人生及び仕事面に於いて「作用・反作用の原理」が働く。     「失敗を前提に勝利を夢見る。そんな経験を繰り返す」という部分に大変共感しております。これからも是非 宋 文洲様の
我々への指針を期待しております。橋山
Posted by 橋山 豊 at 2018年05月25日 10:20
宋さん
お早うございます。
ご無沙汰しています。
対米滞在を楽しまれているようで何よりです。
今日のコラムの一文に、
『若い頃に私は「中国を変える」という夢を抱いた時期があります。』を発見し、大変感動し、嬉しく思います。その志は、きっと心の片隅で、どんなに小さくなっても置き火のように、きっと消えないからです。また、キリスト教を学ぼうとしたことも尊敬します。僕は、専攻が哲学ですから卒業論文に広い意味で、キリスト教哲学を選ぼうとしたのですが、入信しないとどうしても理解・実感を得られないことがあり、諦めました。入信すれば、キリスト者の眼でしかものが考えられなくなると思ったからです(キリスト教を信仰する方々に誤解を与えたら御免なさい)。それでギリシャ哲学のソクラテスの弟子を選びました。いまだに、キリスト教もイスラム教も仏教も老子も、日本の神道史も学び、決して無神論者ではありませんが…。
政治であろうが、学究であろうが、経営であろうが、農漁業者であろうが、職人であろうが、ただの労働者であろうが、世の中の役に立ちたい、良くしたいという思いは同じだと思っています。
宋さんに、そんな時代があったことを知ってとても今日は、嬉しい一日に成りそうです♪\(^o^)/
Posted by 沼田一博 at 2018年05月25日 10:22
人は生まれた時から自分の自由意思とは無関係に他人が作ってきた社会環境と相対的な関係性の中で生きて往かざるを得ない

社会の中で産まれ社会の中で育ち社会の中で働き社会の中で産み育て死んでゆく

DNAの構造には逆らえないのでしょうが有害な社会要因とは無縁な人生を選択し続ける他に心に自由を得る方法はないように思います

私は働くことで人間の本性を学んだ
Posted by 主水 at 2018年05月25日 11:16
素晴らしい指南です。宋さんの「何のために働くか」は、大抵の人にとって何のために生きるのかと同義になってしまっている日本人には、最も重要なテーマだと改めて思いました。まずは、生きるために働くのではないということが重要だと思いました。達成感を得るために働いているといいkなと思いました。
Posted by 藤原洋 at 2018年05月25日 12:10
毎回楽しく、興味深く読ませていただいていました。
終わってしまうのは大変残念です。
Posted by 三浦光治 at 2018年05月25日 12:34
長い間お疲れ様。毎回連載楽しみにしていました。自分が1979年から中国ビジネスに携わり今も
毎月中国に行っていることから、共有できる部分が多くて大変勉強になりました。最近は宋さんの
コメントが次第に攻撃的で少し違和感もありましたが、最近の日本人ははっきり物事を言わないので非常に新鮮に思っています。これからも発信を
続けて貰い、何時かどこかでお会いして直接話をしたいと期待しています。最後に健康と家族を大事にして下さい。
Posted by 木村正文 at 2018年05月26日 10:39
今回の論長論短は良かったです。全体的に良かった。宗さんは今、ある種の悟りのような境地におられるように見えます。私もそうなりたい!
Posted by うめだ at 2018年05月27日 10:20
毎月楽しみに読ませて頂きましたが、連載が終了とのことで、初めてコメントさせて頂きます。大変残念です。

一人の人として、また日本人以外の考え方を理解するのにいい勉強になりました。たまには日本人的には辛辣なご意見もありましたが、そこも含めて面白かったです。

ぜひまた機会がありましたら、コラムの再開を期待しております。世界を見聞して、また新しい新鮮な話しを届けてください。

最後になりますが、益々の宋さんとご家族のご活躍、加えて健康とご幸運をお祈り致します。


Posted by 奥田 貴哉 at 2018年05月28日 11:18
宋様
やっと、宋さんの本心が判りました。あなたは偉いです。御自身の最終の着地点が、、最後は心、人生の苦労の結果のたどり着く先は自分自身の心の中にあるのかも、幸せな老後を祈っております。
Posted by 右楽 at 2018年05月28日 21:28
漢民族のドライバーが彼の姿を見て、「この根性を商売に投入すれば大金持ちになれるのに」と言うと、観光ガイド役のチベット族の女の子から「あなたは可哀そうな人ですね」と冷たい目で見られていました。

→宋さんは、チベット族の女の子の言葉を聞いて、どのように感じたのか知りたいものです。ドライバーと同じように感じたのでしょうか。

ここ数年の宋さんのメルマガは、中国共産党賛美を基本姿勢とする内容が多く、大変に残念に思っていますが、自分の顔と名前を出して、しかも日本人向けに発言をすることは、大変な勇気が必要なことだと思います。そのことだけでも尊敬に値します(内容には賛成いたしかねることが多いですが)。

ところで、今回のメルマガの内容は、週刊文春への連載終了時の寄稿文をメルマガにも掲載されただけで、メルマガが終わるわけではないのですよね?
Posted by まるまる at 2018年05月30日 13:34
これまで、良いお話をいただき感謝です。
今回もかなり同感できるお話でした、私は道元さんなどいろいろ勉強させていただいてます。
日頃小さなことでも幸せを感じ、同感を感じ、怒りを感じと人それぞれでいいのかなと思ってます。これからも明快なお話を聞かせていただける機会があれば良いですね、お元気で!
Posted by suzuki sin at 2018年05月31日 16:43
これまで、良いお話をいただき感謝です。
今回もかなり同感できるお話でした、私は道元さんなどいろいろ勉強させていただいてます。
日頃小さなことでも幸せを感じ、同感を感じ、怒りを感じと人それぞれでいいのかなと思ってます。これからも明快なお話を聞かせていただける機会があれば良いですね、お元気で!
Posted by suzuki sin at 2018年05月31日 16:43
政治の世界が汚いという点では日本も似たようなモノ。

Jarred Diamond博士の著書に、過去に中国から台湾に大規模な人口流出があった後に、さらに、その連中がマダガスカルやマレーシア、インドネシア、ニューギニア等に広く拡散していった痕跡があると記述されていた。言語の分布状況やその変化のしかたを調査して分かったらしい。

現在の中国はかなり進歩して繁栄しているが、やがて、過去と同じように広く拡散して行くのではないかと思う。

アメリカが嫌になったら、シンガポールやニューギニアやオーストラリアやニュージーランドでも回って見るのも良いかも。

銃規制のない国にどうしても馴染めない人間も多いと思う。ましてやトランプが無茶苦茶やっているし。
Posted by 黒狼鳥 at 2018年06月07日 19:34
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