チベットの空気で思うこと

前回の「北京の空気で思うこと」のコピーですね。
チベットに来てそろそろ一週間たちます。チベットの自然や宗教や近代化について思うことはたくさんありますが、毎日一番気にしているのは空気です。

空気が薄くなるとはいったいどういうことか、チベットに来ない限り、真剣に考えることはありません。

チベット鉄道は青海省の西寧から出発してチベット自治州のラサまで2000キロあります。途中相当の部分が標高5000メートル以上の高さにあります。西寧の海抜は2200メートルくらいですから、心臓の動きが早いと分かりますが、車窓の外に広がる雄大な自然を楽しむ余裕があります。

しかし、列車が4000メートルを超えると、頭が痛くなり始めます。寝ても起きてもつらいです。5000メートルを走っている間は吐き気がどんどん激しくなり、真夜中なのに一睡もできません。「こんな辛さを知っていたら飛行機で来たよ」と後悔し始めました。

ラサのホテルに着いた時にはもう意識が朦朧としていました。激しい頭痛、吐き気と共に肩凝りや頸凝りが出てきました。とても食事する余裕がありません。

しかし、8時半になると部屋の通気口から酸素の供給が始まりました。30分もしないうちに、私は見る見る元気を取り戻し、食欲が出てきました。2、3時間で肩凝りや頸凝りも消えてなくなりました。

ラサに着いても各地の観光名所や寺院を訪ねるには必ずと言ってよいほど5000メートルの山を越えなければなりません。超えるたびに携帯の酸素を吸うようにしました。吸わないとどうなるかは分かっているからです。3000メートルの都会に降りてきても油断して長く歩くと体が同じ酸欠現象を起こします。

体の辛さだけではありません。空気が薄いということはお湯が60度や80度で湧いてしまうのです。だからなかなか温かいものを食べられません。北京から持ってきたお菓子の袋や化粧瓶などはパンパンに膨らんでいます。平地の気圧で入れた空気がこちらの薄い空気に拡散しようとしています。

こんな話で終わるとつまらないと思う方も多いと思いますのでついでに経済の空気について考えてみたいと思います。

高速道路を降りたところに四川省から来た若い夫婦がやっているレストランがあり、そこで昼食をとりました。対応も味も良かったので目的地の林芝(インドまであと百キロあまりのところ)から戻った日にもそのレストランを利用しました。

食事中にチベット族の方が数日前に親戚が落とした財布を探しに来ました。店主が中身の質問をした後、財布をその方に託しました。「よくあるんですか?」と聞くと「携帯電話が一番多いが、財布もよくある。あるときは6万元(110万円)を拾いました。」というのです。

車で追いかけて返す場合もあるのですが、殆どの場合は戻ってくるのをじっと待つしかないそうです。一年間も充電しながら待っても一度も鳴らない携帯電話があるそうです。遠方に帰った客が諦めて破棄手続きする場合が多いそうです。

「商売は信用が一番。必ず戻ってくるんですよ。」三十代の店主の言葉は商売の空気を思い出させてくれました。信用は商売の空気です。無くしたら終わりです。

宋メールに何を書こうかと悩んでニュースを見るとビットコインや米国株の下落を目にしました。タイミングを予測することができませんが、市場下落はそう遠くないと宋メールで以前にも言いました。

理由は金融の空気です。与信は金融の空気です。ゼロ金利は酸欠した病人を助ける酸素タンクです。一時的に使ってもいいですが、いつまでも使うものではありません。私のように平地に戻るか、チベット住民のように空気の薄さに順応するか、どちらでもです。酸素タンクを背負いながら高原に居座るのは邪道です。
この記事へのコメント
宋さん
お早うございます。
とても良い経験をされましたね。
飛行機でなく列車というのが貴重ですね。
高い山は、歩いて体に負荷をかけて、高知順応ということが必要です。場合によっては、一度千メートルくらい降りてまた登りなおすようですよ。

金利も、徐々に変化させないとリアクションが起こるのでしょうね。銀行に企業の「キャッシュ・フロー」の血液銀行や病院の役割を期待するのなら、「0金利」は無理がありますよね。銀行が健全に食べていけないようなら、金融市場は、カジノか鉄火場ですよね、それにボラティリティに反応するコンピューター自動投機(AI)化すると、反応が体温計を振り切ってしまいますよね。コンピューター投機には各国とも「ボリウム制限」を真剣に考える時期かもしれませんね。中国の金融市場も火傷をしないうちに「鉄火場」からの脱皮を考えなければいけない時期かもしれませんね。

僕もヒマラヤにトレッキングに行きたくなりました。

Posted by 沼田一博 at 2018年02月09日 08:40
面白い経験されて良かったですね、経験は人生の糧だと思わされます。
いつも明瞭的確なご意見を拝聴しており楽しんでおります。これからもお聞かせください、よろしく御願いいたします。
Posted by 鈴木 新 at 2018年02月09日 08:55
宋さんおはようございます。いつものヘソ曲りです。

まさか宋さんのメルマガでチベットの人々のことを読むとは思いもよりませんでした。

宋さんが書かれているとおり、チベットと北京では高度も空気の濃さも空気の清冽さも違いますよね。
中国4000年もの時間の流れにおいて、当然、”風土””文化”も異なったものになるはずです。その代表的な風土・文化がチベット仏教であると、私は確信しています。

にも関わらず、中国共産党政府は仏とりわけチベット仏教のゲルク派を弾圧し、『酸素タンクを背負いながら高原に居座る』べく漢民族化しようと躍起になっていることは世界の知るところです。これは宋さんが仰るとおり『邪道』ですよね。

今般の宋さんのコメント、是非とも環球時報に投稿されては如何でしょうか?
Posted by 田中 晃 at 2018年02月09日 08:59
フリーチベット!フリーチベット!→なぜこの問題に触れないの!?同じように弾圧されてるから??
Posted by o-ta at 2018年02月09日 09:12
私もボリビアの首都ラパス(海抜3,600m)で仕事をしていたことがあるので、高地の生活そしてゼロ金利は酸素ボンベ説はよく分かります。金融緩和をを続け、財政赤字を続けるこの国の(近い)将来を憂います。
Posted by 丹内 寛 at 2018年02月09日 09:31
宋さんとチベット、どんなプリミティブな話になるかなとワクワクしながら読みました。

(先んじてコメントされた方の)「高知順応」も初めて知りましたが、記事のコメントで話が広がる楽しさもこのメルマガの特徴ですよね。

今回、(四川省から来られた夫婦の)レストランのお話がきっかけで、2つ気づかされた点がありました。

一つは華僑について。異国の地に移り住み成功をおさめている事で有名ですが、金儲けが上手い、機を見るに敏と色々とあるでしょうが、やはりそれは手法であって実は「信用」という積み重ねの結果なんだと感じました。

あと一つ、実はこの四川省夫婦のお話が最初すんなり心に入って来なかった事でした。
どうしてだろうと自問しみて(この四川省夫婦を)日本人夫婦に置き換えると、この物語がすんなり心にはいってくる自分に「気がついた」んです。

日本の偏重報道?そのせいにするつもりもまったくありません。むしろこれからどうやって「健全な反応」を育てる情報、知識をとりいれていく必要があるかを考えさせられました。

生きている間にチベットに行く機会があれば、是非このご夫婦のレストランに寄ってみたいですね。





Posted by newton at 2018年02月09日 10:02
「市場下落はそう遠くないと宋メールで以前にも言いました」
また始まりましたね、都合の良いところを切り取って「当たった、当たった」。経済は上がったり下がったりするから、適当なところで発言すれば、かなりの確率で「当てる」ことができます。
なかなかうまいやり方だと思いますが、我々は忘れません。米国大統領選の直前に「これでクリントンが買った」とツイートしながら、トランプが勝った途端に発言を削除したことを。
Posted by H.Mari at 2018年02月09日 10:34
失礼、訂正です。
「これでクリントンが買った」
→「これでクリントンが勝った」
Posted by H.Mari at 2018年02月09日 10:35
宋さん、数年前から読んでいますが、最近は完全に中国体制の話がタブーになってしまいましたね。
むしろ中国をほめたたえている。
良い悪いは置いといて、少し驚いています。

Posted by 斎藤 仁 at 2018年02月09日 20:35
チベットに行ってそれしか書けないあなたの知性と勇気を疑います。
もう言論人を名乗ることをおやめになられてはどうですか?みんな見破ってますよ。
Posted by みんみん(♂) at 2018年02月11日 14:13
宋さん、いつも有難うございます。

今回の記事はともかく、
テック起業(技術起業のこと)を推奨する
論調が多い状態を見ながら、私がこっそり
思っているのは、

「水面下で相当きつい思いしてますよ!w」

です。薄い空気で体が反応するのもこれに
近いことかも知れませね。地に足を着ける
勇気、実践するのは大変なのだと、そして、
その大変さを潜り抜けた来た元祖テック
起業の宋さんの筆が緩むことはないだろう
と思っています。(^^)。
Posted by sparerib at 2018年02月11日 22:12
最近も宋メールは実に自虐的な内容が多くなっているように感じます。

チベット族が財布を探しに来た話は、それがもし漢民族であったら決してありえない話でしょうし、「信用は商売の空気です。無くしたら終わりです。」の宋氏の言葉は、中国食品を典型例として、日本国民からまったく信用されていない中国企業の姿を自虐的に言っているとしか映りません。

東南アジアで展開した中国新幹線事業なども、事業受注者として「信用を守ること」に大して価値も見出さないて、勝手にキャンセルする中国国営企業の事例もたびたびあることから、「強大な権限をもつ官僚が思うままに上から支配する国では、政府・人民ともども信用など都合が悪くなったら鼻をかんで捨てる鼻紙程度の当然のことでしかない。しかし、チベットではいまだに信用を守る価値が残っていた」と言った方が宋氏の感想が正直に見える。

ただ、ゆうパックのCMではないが馬鹿が付くほど真面目に顧客と交わした約束を必死に守って信用を失わないようする日本人に対して「中国人から見ればお客など神様でもなんでもない、金を巻き上げる対象者に過ぎんのに、日本人はなぜそこまでして信用を守ろうとするのか」と言った方が、話題としては面白くなったと思うが
Posted by 大木みきお at 2018年02月12日 04:31
宇宙進出のこと考えちゃいました。(イーロン・マスクさんが火星目指してるし) 縄張り本能も(1%の金儲けも、縄張り根性?)人を支配し続けてるけど、未知未踏への好奇心も又、人を惹き付ける。何とかして私達、これからはこちらに向かいたい。だって地球環境自体、このままいくとどうなる事やら…。
(関係ない事書いて御免なさい) 
 
Posted by 末永美枝子 at 2018年02月13日 17:36
深いコメントですね。
Posted by かつらぎ at 2018年02月17日 15:17
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