胡坐

なぜあぐらは「胡坐」と書くでしょうか。ポイントは「胡」にあるのです。胡椒(コショウ)、胡瓜(キュウリ)の胡です。

中国には胡を使う単語はもっとたくさんあります。胡琴、胡子、胡説、胡人、胡同などのどれもがシルクロードに関わるものです。胡とは西域の外国を指します。

今月、北京では70数か国が集まり、中国が呼びかけたシルクロード貿易の国際会議が開催されました。ベトナム、ロシア、トルコなどのユーラシア大陸の首脳たちが参加しましたが、米国と日本も代表団を派遣しました。

日本人の多くは中国に末期清朝の遅れたイメージを持っていますが、3千年前の始皇帝以来、中国は大半の時代において世界のGDPの2、3割を作り出し、ユーラシア大陸やアフリカと盛んに交易を続けてきたグローバル志向の国でした。

昨年11月25日の宋メール(ご参考:TPPは神風にならぬ
http://www.softbrain.co.jp/mailmaga/detail/back315.html)でも申し上げましたが、交易の唯一の原則は双方が得することです。貿易とはA国の余ったもの(あるいは得意とするもの)とB国の余ったものが交換され、お互いが豊かになる仕組みです。敵国同士さえ貿易するものです。

ここで私が好きな李白の詩を一つ紹介しましょう。

秋歌・李白
長安一片月、万戸搗衣声
秋風吹不尽、総是玉関情
何日平胡虜、良人罷遠征

秋の歌・李白
一面の月光にある長安、家という家から布を加工する音が聞こえてくる
秋風が吹きやまず、彼女が国境にいる彼を思う
いつ外敵が平定され、遠征がなくなるだろうか

西安はシルクロードの始点です。各地から集まったシルクはここで最後の加工を行い、西域に運ばれて行きます。長安の人々の多くはこの生産に参加していたでしょう。国境紛争があっても貿易は続きますが、李白は人々の平和への期待を詩に託しています。この詩の中でも「胡」は外国を指します。

「私の工場をフル稼働させれば、中国全体のニーズの8割を供給できます。」3年前、ジュース最大手を経営する友人が私に自慢ではなく、苦悩として話したことです。ジュースのみならず、多くの商品について、中国は過剰な生産力を持っています。

余った生産力を処理する方法は二つしかありません。新しい商品を生産するか、新しい市場に出るかです。シルクロード沿線の国々は昔から中国の過剰な生産力を吸収してきた国々です。当然、中国もこれらの国々から商品や文化を取り込んできました。たとえ紛争があってもその貿易を中断することはありませんでした。それを「胡」に代表された言葉の数々から垣間見ることができます。

中国の歴史では、国を開放し盛んに貿易を行う時は生活が豊かになり文化も発達しますが、鎖国した時は貧乏になり発展が遅れてしまうのです。

習近平の故郷は西安の近くにあります。彼は生まれた環境から西方にある国々への愛着と親近感を持っているでしょう。私がパキスタンに特別な親近感を持つ理由は、小さい時に新疆に3年間暮らした経験があるからです。文革が続く中、沿海部の山東省では聞いたこともなかったパキスタンですが、新疆では使ったタオルまでパキスタン製でした。

3年前、ハーバード大学ビジネススクールを訪ねた時、構内で道を尋ねた女性がパキスタン人でした。思わず「あなたの国のすぐ近くに3年間住みましたよ」と言いました。

冒頭は「お互いが得する」という貿易の原則を言いましたが、貿易にはもう一つ重要な常識があります。それは距離が近いほど輸送コストがかからないことです。近所のニーズを避けてわざと遠くの国と交易する商人はいません。近くの国から徐々に遠方の国に貿易を広げていくものです。

今月、中国のシルクロード会議の後、ベトナムではAPEC会議がありました。ついでに開催されたTPP討論会議では米国大代表は明確に「米国は二国間の交渉を重視する。TPPに戻ることはない」と言いました。昨年11月25日の宋メールに書いたようなことを、米国の新政権が早速証明したのです。米国市場に甘えながら米国を引き込んで中国に対抗する右翼たちのTPPへの甘い願望は、またも泡となって消えました。心が狭い人たちが考える交易はいずれ袋小路に入るのです。

シルクロード交易には昔も今も外交同盟や政治条件がありません。唯一の原則は「お互いが得し豊かになる」ことです。仲間も敵も論じません。あるのは交易だけです。大勢が集まるのですが、その大勢はあくまでも一対一のビジネスを展開するために集まるのです。

ちなみにアラブ人たちが商談する時は絨毯に胡坐をかいて行うのです。交渉同士の二人は袋に手を入れて指を使って値段の交渉を行います。第三者に分からないように二人だけの「二国間交渉」なのです。それがあぐらを「胡坐」と書く理由でもありますよ。

急に好きな日本語を思い出しました。「古い○○に胡坐をかくな!」
この記事へのコメント
前回の「東芝の本当の危機」には同意できませんでしたが、今回の記事には同意します。やはり商売は商売で政治とは切り離すべきでしょうね。日本経済がダイナリズムを持っていたときも、そうだったと思います。それがもとでアメリカから怒られましたけどね。
Posted by ひろちゃん at 2017年05月26日 08:12
米国市場に甘えながら
米国を引き込んで中国に対抗する右翼たちのTPPへの甘い願望は、またも泡となって
消えました。心が狭い人たちが考える交易はいずれ袋小路に入るのです。

これはどういう意味ですか?
Posted by Bruce Muto at 2017年05月26日 09:32
「一帯一路」政策の布教活動ですね。お国の政策ですから、大いに主張されれば良いと思います。しかし、一番言いたいのは目立たないように書いた「右翼」(?)の悪口でしょう。主張にかこつけて嫌いな人物や勢力の悪口を言うのは毎度のことながら感心しませんね。
そもそも、「古い○○に胡坐をかくな!」が好きと言いながら、なぜ何千年も前のことを持ち出して自慢するのでしょう(今回だけではありませんよね)。日本人が中国に遅れたイメージを持っているというのはある面正しいけれど、漢字をはじめとして昔からいろいろなことを中国から学んだことは歴史として習うこともあり皆知っていますよ。また、近代・現代において中国が「遅れている」ことに関しては、「眠れる獅子」といわれながら日清戦争に敗れたのも、二次大戦では戦勝国?になりながら発展が遅れたのも客観的事実であり、それは中国が国としてまとまりがなく内紛を繰り返したことによるものでしょう。都合の悪いことは日本人の誤解や偏見だ、というような言い方は止めていただきたいものです。
日本人は宋さんもご指摘のように皆が同じ方向を向きやすい独特の文化を持ち、明治維新や戦後の復興についてはそれが良い方向に作用したけれども、一部の弱者を切り捨てることができず、大きな方向転換ができないのが今の減速・衰退の根本的な原因になっていると思います。中国はある意味その逆ですね。民族性の違いによるところが大きく、どちらが優れている・劣っているということではないと思います。
ですので、貿易についての問題点やその他現代日本の多くの病巣も、少なくとも一部の右翼が悪い方向に引っ張っているというようなことではないと思います(逆に言えば、事態はそれだけ深刻だと思っています。ちなみに、私も右翼は嫌いです)。また、貿易に関しては、特に先進諸国は自国の産業は守りたいと思っており、また、民主国家ではそもそも反対意見が通りやすいので国策がまとまりにくく、途上国型の失うものがない独裁的国家とは事情が違うのです。そのあたりも含めて評価しなければフェアではありません。
もう1点、新疆にいたから(新疆自体やウイグルではなく)パキスタンに親近感を持つ、というコメントに興味を持ちました。宋さんはメルマガでもツイッターでもウイグル族の悪口を書いており、差別意識が露になっていますが、日本人の中国に対する偏見を指摘する前に、まずはご自身の差別意識を見つめなおしてはいかがかと思います。
Posted by H.Mari at 2017年05月26日 10:15
中華思想万歳!! 世界の中心は中国です。世界の貧しい国々へ大量に印刷した元を貸して、中国人を沢山移住させ、更に軍事力を強大にして世界を征服して下さいね。次期、国家主席は宋さんです。頑張って下さい。
Posted by koichi takasugi at 2017年05月26日 10:16
宋さんおはようございます。
いつものヘソ曲りです。

なるほど、宋さんは完全に習政権のメッセンジャーとしての役割を表明されましたね。

習近平主席の”一帯一路”構想は、ここで宋さんが仰っているように、お互いの国で「余っている物」を交換してお互いに豊かになろうという二国間貿易を標榜していますよね。

しかし、それは完全に建前でしかないことは世界中の誰もが知っています。中国の”覇権主義”実現のための手段であることを知らない者はいないと思います。とくに、南シナ海の一方的な領海宣言の下での強引な軍事要塞化、フィリピンへの「戦争勃発」という脅しなど、とても宋さんが仰っているような「豊かさ」とは縁遠い行為をどう説明されますか?

シルクロード沿いの国々、アフリカ諸国、中南米諸国、東南アジア諸国へのAIIBの投資という名目による”札束外交”も、その実、実質的な利益は中国企業が吸い上げ問題が表面化している事例も報告されていますよね。

このような中国政府による覇権主義の実践手段になりかねない行動に、宋さんが日本人向けの洗脳とばかりに”一帯一路”計画を後押しするコメントを出されるのは如何なものでしょうか。
Posted by 田中 晃 at 2017年05月26日 10:30
今回はひどい、共産党機関紙みたいでした。
気に入らないことがあれば、力を振るう中国に公正さは期待できません。
第三者に分からないように二人だけの「二国間交渉」なのです
とありましたが、第三者にわからないように交渉なんて今の時代不可能でしょう。
TPPは、中国のように自己中心的わがままな国に共通のルールを教えるよい機会であっただけに残念です。メルマガはもう見ません。


Posted by AKIRA M at 2017年05月26日 10:43
余剰生産能力の原因を作った一端が日本企業
だったが、既に日本が消費市場と能力(?)が
下がり気味だと言われているようなものです。
反論出来ないししても無意味なのが何とも
寂しい限りですが仕方ない(;_;)

時計の針を30年以上巻き戻して日米関係を
再燃しようとすれば、車売りすぎってまた
言われます。そうこうしているうちに日本車
が何とも中途半端だと日本人からも意見が
出始めています。

こういうときは、生活インフラ体系の作り
直しに焦点を当てて、中国がシルクロード
再現させる計画について、蓄えなおした
力の活かしどころを考えるのが最適だろうと
思います。政治が近視眼になりがちなのは
日本に限った話でもないはずで、問題は
政治との距離感の取り方でしょう。
(関連性が錯綜しがちな日本の最大の課題)
Posted by sparerib at 2017年05月26日 12:05
中国が西洋のような覇権主義でなくて本当に良かったと思っています。でなければ日本はとっくに中国に支配されていたでしょう。

>近くの国から徐々に遠方の国に貿易を広げていくものです。
ここに中華思想がよく現れていると感じました。

>シルクロード交易には昔も今も外交同盟や政治条件がありません。
いい言葉ですね。日本との関係もこのようになればいいと思っています。
Posted by 添田博信 at 2017年05月26日 12:56
「古い歴史に胡坐をかくな!」

今まさに一瞬を逃せば、一生後悔する時代です。胡坐を掻いていれば、一生を棒に振るでしょう。学問と地位も同じ、それ以上の事を考え伸ばさなければ、それで終わりです。

日本の官僚や政治も同じ、江戸時代と同じことを繰り返していれば、やがて滅ぶでしょう。

TPPや他国との貿易は経済が引っ張るとして、基本合意は政治の範疇ですから、袋でしっかり金額を決め、合意する必要があります。

前に鉄道の取引で日本が負けたのも、袋の中でしっかりとした金額で合意しなかったのが敗因でしょう。昔で言う軍師がいなかったのが原因なのか、しっかり策を講じていればそんなことはなかったと思われる。まぁ、金額面を除けばね。

ローマ帝国と同じ天下泰平なんて考えでは、先細りは当たり前です。

しっかりとした考えのもと、政治・貿易・経済が発展するように行動し、全世界と共通認識を持ち進めていかなければ、国内産業と一部の国外産業(輸出)だけで終わってしまう。

もっとグローバルな発展と防衛と警備(国内外)で経済をバックアップすべき時代なのかもしれない。

長文にて失礼しました。
Posted by マリンスノー at 2017年05月26日 13:54
大陸の人の見方考え方と島国の人のそれにそれぞれ特徴が在り興味を惹かれます
漢字文化など共通点も多いので将来的には胡坐をかく関係が築けることを期待しています
 力による現状変更は将来的に禍根を残すことを誰もが知ってい居るので大国の中国にはリーダーシップを期待したいところです
 中国の船が日本領海に侵入し始めたころから中国へは行かなくなりました近くて素敵なところが沢山あるのに残念でなりません
Posted by 主水 at 2017年05月26日 15:31
すっかり使われなくなった「胡坐をかく」という言葉を思いだして、なるほどと思いました。
いまの政界で最も使用頻度の高い言葉は「しっかり」です。しっかり異常とも思える使用頻度なのです。
Posted by 原口公平 at 2017年05月26日 17:15
やはり話が混ざるとややこしいなと感じる今回のメルマガでした

要はビジネスの話なのか政治の話なのかという点です
どちらとも取れるような文章なのでちょっと一貫性を感じない気持ち悪さがありました

ビジネス面ではその通り
でもイデオロギーが入ると話が拡散するよねというか
ちょっと脇道に途中で逸れて話が拡散した下手なプレゼンを見たような時の気分になりました

何にせよビジネスはビジネスという点は賛成です
Posted by 通りすがり at 2017年05月26日 23:30
日本は日露戦争に勝つことで、大艦巨砲主義に投資して、レーダーと航空戦力に惨敗するという歴史を体験しました。
成功体験には、自信を持つという利点がありますが、成功した方法にこだわる、という欠点もあるようです。
少し昔、日本が先進国に急激に発展したのは、当時の人々の頑張りの結晶であり、誇ってもよいことでしょう。
だけど、アジアの国々が途上国であったことを、蔑む心も生まれたかもしれません。
私の同級生で、有能なんだけど、他人を蔑む人がいました。
そのとき思ったのは、「彼が蔑んでいるその人が将来、彼よりも出世した場合、彼は現実を受け入れられるだろうか?」という疑問です。
今の日本の、右寄りの人たちの意見を見てると、そのことを思い出します。
Posted by 浦辻久雄 at 2017年05月27日 01:19
今の日本の、ぞっとするような独裁政権=排外、敵対で支配力強化…で、どれだけこの国の将来を害うかと案じてました。 このメール、本当に、今の巧みな安倍ダマクラカシ政権に見せたいと思いました。
私達は時の空気に巻かれてなかなか気づこうとしないようで、今本当に不安です。 長く続いた個を持たない 自分の考えを育てない人づくり教育の効果?(ぶっちゃけた話…私、日本人として 日本人になんだか違和感?を感じてます。バスや電車で他人とおしゃべりしない…ただ、あの、大地震の時だけは違いました♪ 知らない人に話しかけたり、助け合ったりしてました♪)
まさに、宋さんの仰る「ウィンウィン」に、力を注ぎたいです!
 
Posted by 末永美枝子 at 2017年05月27日 08:46
今回は、宋さんの本文を読んでから、読者のコメントにも目を通してみました。
宋さんの意見が意外と理解されないのに驚きました。
僕には、宋さんの考えがすっと抵抗なく、理解できます。
中国は、経済成長を維持するためには、市場を拡大するか、新商品の新市場を創設するか、しかない。
テレビとか、車とか、携帯電話・スマホとか、新しい大消費を巻き起こすには、その元になる画期的な新商品が必要ですが、まだそれは生まれていない。
今ある商品に工夫を加えながら、より広範囲な普及を目指すことは、決して間違った経済戦略ではない。
中国がユーラシア大陸全体を商圏に設定し、交易拡大に努力することは当然のことです。
交易には、金が要るし、交易商品が要る、果たして相手国にそれらがあるか、当然相手国の経済発展にも協力しなければならない。
中国の対外交易の歴史は古く、交易そのものの資本主義の歴史はもっと古い。
消費人口の多さと、商圏の大きさは、資本主義の原理である資本の規模を決定する。
それはつまり、弱肉強食の資本主義の世界における、優劣を決定する。
おそらく、世界史上初めて、世界全体市場の、本物のグローバル化が起こりつつあるのだろう。
これは、中国一国の政策ではなく、世界人類全体の願望欲望の、自然な流れなのだろう。
Posted by 藤田 備 at 2017年05月27日 19:53
今回も興味深く読ませていただきました。
しかしやはり最近というかこの数年宋さんの評論の立ち位置が少しづつ移動しているんだなあと感じることが増えました。
古代中国の文化やコンセプトのエキスはさすがに世界帝国だと思わせる豊かな思想を感じさせるものがありますが、その歴史は勝者の論理で作られているのももう一つの事実でしょう。
近代中国以降のお国の姿勢が、古代中国の豊かでロマンに満ちた-でも実は後世作られたコンセプトと-重なっているとはなかなか思えないような、他者を軽蔑する強権発動や究極の自己中心的なものに変化していることをほとんど問題視していないかのように感じるのは残念です。
日本人も確かに以前の日本人のような高貴さと正直さを誇りにする利他主義的な人が少なくなってきたのは認めるとしても、大方の日本人の生真面目さと素朴な素直さは、この国の犯罪の少なさ、安全と直接結びついています。
現代のアメリカ人や中国の方のように、目の前の直接利益だけの効率を追求するのが正しいという考え方は、もうすぐ終わるでしょうね。
Posted by 千頭邦夫 at 2017年05月30日 20:13
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