事実という嘘

目の不自由の方々が象を囲んでこの珍しい動物がどんなものかを調べることにしました。調べた後、それぞれの人が象について以下のように述べました。

「象は扇子のような動物だ」。耳を触った人が言いました。
「象は柱のような動物だ」。足を触った人が言いました。
「象は蛇のような動物だ」。鼻を触った人が言いました。
「象は壁のような動物だ」。胴体を触った人が言いました。

・・・・・・同じ動物を調べたのに、十人十通りです。

この「盲人摸象」という寓話を私は小学校の教科書で知りました。同じ事実であっても見る人の主観と限界で異なるものとして認識され伝えられてしまいます。だから特定の話をそのまま信用せず、現場で直接見聞することや複数の話をクロスチェックすることが重要であると教えられました。

組織や世間の人物評はほとんど盲人摸象と同じです。実際にその人物と接触していれば世間での評判がまるで違うことはよく分かります。その実態と異なる評判や印象は時には一部の事実からの誤解や拡大解釈によるものですが、多くの場合、一部の事実を利用して恣意的に操作されるものです。

報道や評論において一番重要なのは事実ですが、最近、その事実は情報を発信する人の立場、シナリオおよび思い込みに沿ったものしか使わない傾向がますます強くなってきました。英国のEU離脱国民投票の際、離脱派が挙げたEUにいることで受ける損失は毎週3.5億ポンドに及ぶという主張は事実ですが、彼らはEUにいることで得られる利益という事実について一切触れないのです。

米国共和党大統領候補のトランプ氏ともなれば、彼が主張している事実の多くは実際に事実ではないことが多いのですが、彼と同じ思いを抱く市民にとってはその事実の真否を調査する意欲も暇もありません。まあ、クリントン氏も似たようなものです。

中国崩壊を予想する人たちは自分の論調を裏付けるための数字をたくさん見付けるのですが、IMFの予想とほぼ一致する中国のGDP統計を信用できないと言うのです。崩壊予想に沿う数字ではないからです。最近、中国のGDP統計だけではなく、なんと日本のGDP統計も信用できないと言うのです。

先日、任命されたばかりの地方創生・行政改革担当大臣の山本幸三氏が、「日本政府統計は各省間でまったく調整が取れていない。その結果、日本のGDP統計はどこまで信用していいか分からない。」として、経済統計のやり方を変える方針を明らかにしました。

安倍政権以来、GDP平均成長率が0.6%に留まり、着任当時の目標にはほど遠いだけではなく、過去「失われた20年」の平均よりも低いのです。この数字の低さを山本大臣が「信用できない」ため、もっと高くなるような統計が必要だと言うのでしょう。

政治だけではありません。投資と経営も事実という嘘に支配されています。失敗する投資と経営は決して事実を無視したわけではありません。都合の悪い事実を無視し、思い込みに合う事実を選択するからです。損切りできない投資家が毎朝起きてまず探すのは「下がるはずはない」事実でしょう。

成功体験を持った経営者の多くは成功の偶然性を認めず、自分の能力や人格を過剰に評価する傾向があります。そのため普段よくビジョンや信念を語るのです。そうしているうちに自分のビジョンや信念に反する事実や数字を無視するようになり、報告する人もいなくなるのです。

評論家ならともかくとして、実際に国、企業と資金を管理する人たちにとって、走ってきた象という事実を扇子や蛇という事実として対処していれば、踏み潰される結果が待っています。事実は言うのは簡単ですが、シナリオに沿って選別された事実ほど殺傷力のある嘘は他にありません。
この記事へのコメント
宋さん こんにちは。いつも興味深い話をありがとうございます。
私は自分の資産の打ち20%を香港に上場している中国企業に投資しているので中国経済に崩壊されては困ります。

もらえるかどうかわからない年金よりもそれらの企業からの配当のほうが重要な老後の日銭になることを期待しての投資です。
優良企業の株が割安になることは歓迎ですが。

象と同じような例えですが、個人的には事実と真実は異なるという言い方をして自分のスタッフとか友達を時々啓蒙することがあります。
重要な事は事象の全体を見るそのためには、一面からだけでなく、縦・横・斜め・下から眺め全体像を捕まえることだと思います。



Posted by としや at 2016年09月02日 08:49
 たしかに、公表数値で疑問を感じるものが多い。だって、その基礎となっている数値に関して公表されていないので… 信じるしかないのが現実だが、これだけICTが普及しているのに、ビッグデータとは言わないまでも、主な統計数値の基礎データぐらいは、オープンにしてほしいものだと思う。
 宋さんの我々凡人とは違う視点で、いろんな思いを描いて欲しいです。「人のふり見て我がふり直す」ではないが、考えるきっかけにしたい!
Posted by clinic-pc at 2016年09月02日 08:53
「思い込みに合う事実を選択する」については、宋さんもごく最近なさったばかりですよね。福島で草むらに放置されている車の写真をあたかも原発事故の影響のように報じた写真を取り上げて騒ぎました。これは事故以前から放置されていたもので、Googleの航空写真で確認されており、ネットではとうに片付いた問題です。原発問題については、以前もイチゴの写真を奇形だと騒ぐ記事の片棒を担いだこともあったし、こっそり削除されましたが「原発の放水口が温排水のせいで死の海に」という記事も載せましたよね(他者の記事の転載とはいえ、宋さんともあろう方が「温排水は原発に限った問題ではない」ことくらいご存知のはず)。
「シナリオに沿って選別された事実ほど殺傷力のある嘘はない」といわれるなら、ご自身こそお気をつけになった方が良いでしょう。「評論家」なら何を言っても良いというわけではないと思います。
Posted by H.Mari at 2016年09月02日 09:28
仰るとおり、真実に近づける事実を多面的に積み上げないといけませんね。
思い込みは危険だ。
Posted by 青木伸哉 at 2016年09月02日 09:35
仏教の初期経典である阿含教典に以下のような象と盲人の話があります。
宗教は阿片だとした中国ですが、教科書には、例えは違うものの、このような仏教の教えが取り入れられていたんだと嬉しくなりました。

象に触れた盲人は、その感触を、「あたかも、……のようなものである。」とこぶしをもって争った。

象の頭 水がめ
象の耳 箕
象の牙 鋤
象の鼻 鋤の柄
象の身体 穀倉
象の脚 柱
象の背 臼
象の尾 杵
象の尖端 箒

これに対し、釈尊は、異流派に属する沙門、婆羅門、遊行者たちは盲目であって眼なきものである。
一部分のみを見る人々は、異執して諍論する。
と説いた。

Posted by yanxia at 2016年09月02日 11:11
宋さん、おはようございます。いつものヘソ曲りです。

今回の「シナリオに沿って選別された事実ほど殺傷力のある嘘は他にありません」という、宋さんの結論に異論はございません。

ただ「盲人模象」の寓話にも「シナリオに沿って選別された」ものが存在していますよね。目の不自由な方々に「象とはどんな動物か」と問うた際に、十中八九の方々は耳も鼻も足も胴も触って確認されると思います。目が不自由だから、そういう人たちは一部だけ触って物事を判断するという、先入観なり「シナリオ」が存在していると思います。目の不自由な方こそ、全体を把握するために、微に入り細に入り直接触って確認されるはずです。

今般の宋さんのご意見は「中国崩壊論」への警鐘なのでしょうが、そうであれば、宋さんのような方にこそ、「天安門事件」や「国民党政府による虐殺史」などシナリオに沿った選別をせずに公言していただければと思います。

Posted by 田中 晃 at 2016年09月02日 11:16
宗さんのおっしゃる通りだと思いますが、何故、日本はこのような価値
判断が優位を占める社会になったのでしょうか(日本だけでは無いと思い
ますが)。
私の周りにいる友人たちの大半は、宗さんが言われているようなものの
見方や判断をしていますが、社会の大勢にはならないようです。
マスコミが悪いのか、政治が悪いのか、それを構成する国民が悪いのか?判断しかねるところです。
知識人のほとんどは、盲人摸象の話も、多くの人は自分の思っているこ
とのみを見、自分の思っていることのみを聞く傾向にあることも知って
います。どうしてその声が世論とならないのでしょうか。
世論は様々な価値観を持つ人々の中から空気として形成されるように思
いますが、政治家にしろマスコミにしろ世論を誘導することを生業とし
ている人たちに、そのことに対する恥ずかしさが希薄になってきたのか
もしれません。それは、社会の持つ倫理力の低下(やっぱり自分の利益
を優先しないと損をするからね)があるのでしょう。
一つの仮説を思い浮かべました。民主党が政権を取った時の私自身や周
辺の友人たちの高揚は、見事に裏切られました。口では純粋なことを言っている人たちのメッキがすぐに剥げてしまったのです。その後悔が、理
想の中だけでは実現することができない諦めを、理想を言うことに躊躇
する気持ちを起こさせたのではないか・・・。
少なくとも、宗さんの論長論短の正論は、私たちに勇気を与えてくれま
す。それが社会の空気を換えることにもつながると思います。これから
も、辛口の論長論短をお願いいたします。
Posted by 福井五郎 at 2016年09月02日 11:57
いつもご連絡いただきましてありがとうございます。
多くの情報が溢れる現在、その中から正しく真実を捉える目を私達は養っていく必要があると感じます。もっともらしい調査も良く見ると多くの欠点がある。それを信じて意思決定をしてしまうと大きな失敗につながります。
Posted by 吉田均 at 2016年09月02日 12:00
はじめまして。
語彙の正しい意味ではありませんが、私は事実と真実をこのように解釈しています。
事実:ある事象や出来事について、ある切り口で切ったときの断面
真実:ある事象や出来事について、無限の切り口で断面を積分したもの
マスメディアの報道などは一般的に事実とされますが、あくまでメディアや権力に都合の良い切り口やその周辺における断面や一部の立体表現に過ぎません。
報道でも「なぜそこまで単純化するのか」、「なぜ表面だけなぞって背景を調べようとしないのか」と思うことだらけです。
権力におもねり自己規制や世論誘導を行うマスメディアに期待できないからこそ、真のジャーナリストは真実に迫る欲求に突き動かされるのでしょうが、情報を受け取る側も事実が真実に迫っているのかいないのかを見極める目を自主的に養わない限り、未来は見えてこないでしょうう。
Posted by 飲過亭有忠 at 2016年09月02日 12:50
まったく同感!
Posted by うめだ at 2016年09月02日 21:12
「幽霊の正体見たり枯れ尾花」を人生の指針にするということかな…。
Posted by 伝三郎 at 2016年09月02日 22:13
10人十色、一人が全てを把握する事は無く、情報を出し合って連係協力して行きたいと思います。 そしてやっぱり、教育の事考えちゃいました。自分の頭で考える(私たち、自分の思いや考えも、よく探ってないと思う。自分を分析して、ノートに書き出すとか…)、図書館も利用、仲間とも調べる、みんなの前で発表、質疑応答討論…。こんな場が欲しい。
日本は、和をもって尊し、空気を読む。和も大事、でも個も大事。そして、話し合いがとても大事と思います。 
Posted by 末永美枝子 at 2016年09月03日 08:49
一人の人が一生のうちに見たり聞いたり、あるいは人づてに聞いたり、書物を通して得られる知識は小さなものと思います。盲人が見えない世界を想像するのと同じように、一般の人が世の中全体を見渡すというのは、しょせん無理な話なのかもしれません。
統計の話は面白いですね。よく巷で中国の統計は信用できないという批判を聞きますが、実感として日本の雇用も景気もちっとも上向いているような実感がないのに、数字だけ独り歩きをしているようで変だと思っておりました。人口が中国の10分の1しかない日本の統計が信用できないのなら、中国は仕方がないですよね。
インターネットが普及して、本来耳にすることのない雑音も多く聞かなくてはいけない世の中になったということなのでしょうね。
Posted by コアラ at 2016年09月07日 18:31
こんにちは、いつも宋さんのご意見を拝聴し感心することも多々ありますが、今回のお話しはちょっと違うのではないかと思いました。
「盲人摸象」の寓話は「正しい情報の取り方」についてであり、その後の例として掲げてられる話は「情報操作」の話だと思います。
例として上げられている話は、過去にもたくさんありました。湾岸戦争の時に米国の報道機関がとった態度もそうでしたね。すべての真実の情報を知ることができない一般の人に対し、一部の都合の良い情報だけ世界に発表し正義のために戦っているのだと。
中国崩壊説をとる人は中国政府が都合の良い情報しかIMFに報告していないからであり、実態はその10倍も経済状態は悪いといっているのだと思います。まさに中国政府による情報操作ですね。
我々一般人は中国政府が本当に情報操作しているのかどうかわかりませんので、IMFの見解も中国崩壊説を訴える人の情報も両方聞いて自分で判断するしかないと思います。
日本政府もGDPの算出方法を変えるなどというのは、情報操作をしようとしているのかもしれませんね。
Posted by 匿名 at 2016年09月08日 12:49
日本は、役に立った、手柄をたてた人間に米一粒も与えず、笑い者にした国です

宋さんも、米一粒位はやれよ、と
思われる

日本の政治家は、それすらなく
笑い者にしただけでした

宋さんの国では手柄をたてた人間をからかい、
惨めな目に遭わせるような事は

もっとも醜いとされる行為、です

アメリカの方もやってくれません
中国の先生に何とかお助け貰えないでしょうか

この時点で、日本の政治家が最低の政治家の地位が決まり
中国の先生に恩を返せます

日本の政治家、利用価値のあるうちだけです

利用価値がなくなれば中国の先生に背きます

利用価値のない私には非礼の限りです

北朝鮮も滅びろと言わんばかりです

国の大小や利用価値で日本の政治家が礼をとるか
粗末に扱うかわかります

何とか宋さんに、パイプがございましたらお伝えいただけないでしょうか

恐らく、宋さんはそういうパイプのない一介の中国の方だと思いますが。
Posted by Terrttt at 2016年10月25日 15:32
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