経済人は国に甘えるべきではない

経団連の要望で日本の法人税は25%に下げられる情勢です。経営者と株主の立場にいる私としては嬉しい話です。しかし、この結論に至る議論のロジックに納得できません。

思えば消費税を上げる際に、経団連が出した比較対象は欧州でした。日本の消費税率が低すぎるというのです。お望みの通り、これから消費税が8%に上がることが決まりました。今度は、既に30%に下がった法人税をさらに下げるために、比較対象を欧州と米国にせず、アジアにしたのです。

アジアと言ってもそれぞれの国は千差万別です。ベトナムの平均年齢は28歳です。日本の老齢化社会に対してまさに若者社会です。熟年が青年と比較するようなものです。タイとフィリピンの法人税は日本と変わらず30%です。中国は確かに法人税が25%ですが、そのかわりに17%もの付加価値税があります。これは経常利益と関係なく払う税金なのでかなり重いのです。

シンガポールや香港や台湾は確かに法人税が低いのですが、基本的に華人社会で中国との貿易中継が経済を支えています。日本とこれらの社会との比較は牛と羊を比較するようなものです。

実際に日本の法人負担は世界中から見ても全然高くないのです。13年1月における日本の実効税率は、事業所が東京都にある場合、35.64%です(国税が23.71%、地方税が11.93%)。これは、一部のアジアや欧州の国と比べれば高いものの、アメリカ(40.75%)よりはかなり低く、フランスとほぼ同じです。

経団連は業績回復と国際競争力の向上を理由に法人税減税を主張しますが、実効税率が40%を超えるアメリカにおいて、企業の業績は順調に伸びています。米国企業による海外への進出、海外企業による米国進出は未だに盛んであり、法人税の高さが障害になっていないのです。

前回も申し上げましたが、円安誘導は経団連の一貫した要求です。一年の執行で分かったことは輸出の数量がかえって減ったのです。たしかに国内での利益は高くなりましたが、その見た目の利益は消費者の生活コストの上昇をもたらしたことは明らかです。

たとえこれから経団連所属の企業が少し賃金をあげても、それは日本の生活者の殆どと関係ないことです。90%以上の雇用を補う中小企業はそもそも利益が出ていないので法人税と関係がありません。数多くの年金生活者はむしろ年金収入が減るのです(−0.7%)。

法人税を下げるもう一つのストーリーは「下がれば外国企業が大挙して東京にやってきて東京はアジアのヘッドクォーターになる」というのですが、その理屈が正しいければ、今、既に米国の企業と中国の企業が東京に移動しているはずです。まあ、2、3年で再びただのストーリーであることが実証されるでしょう。

企業がその国に進出するかしないかの決定的な理由は二つあります。一つ目はその国での売上が今後大きく伸びるかどうかです。経済が成長する国への進出はこれです。二つ目はその国を経由すれば周辺の国々とのビジネスがよくなるかどうかです。シンガポールや香港への進出はこの類です。経由国の場合、英語や中国語などの環境はもちろん、周辺国との地理的距離も決定的です。

消費税を上げたい時は欧州と比較する。円を安くしたい時は韓国と比較する。原発を再開したい時は中国と比較する。法人税を下げたい時はアジアと比較する。規制を緩和したい時は米国と比較する。変わりたくない時は過去(文化と称して)と比較する。

私はそれぞれの政策を批判するのではなく、都合によって比較対象を変えて議論を展開する古い経済人に納得できません。あれこれ国の政策を変える暇があれば、国際競争力を強化する企業努力したらどうでしょうか。やり遂げている方々も大勢いますから。
この記事へのコメント
全く同感!  素晴らしいことをいっていただきました。  こういうことこそ、マスコミや 有識者がきちんと発言することです。   そういうことがされない国、大変残念です。
Posted by 藤田 克宏 at 2014年02月07日 09:23
宋さん、おはようございます。メルマガ配信ありがとうございます。

消費税を増税して法人税を下げる・・・なんとかミクスと銘打ってはみても、その中身は日銀を使って円をジャブジャブ銀行へ投入するだけ。円が安くなったのは相対的に日本の信用度が落ちたからで、別に今の政権が何をした訳ではないんですよね。

国を借金を減らすために前政権で決めた消費増税を、現政権は都合よく「我田引水」している団体の利権に使われただけとなっています。

おっしゃる通り、企業人であれば自分の仕事で稼ぐべきで、国の政策のおこぼれにあずかるような、乞食みたいなことしかできない古臭い方々は即刻次世代へ実権を譲ってほしいものです。
Posted by まーきん。 at 2014年02月07日 09:36
確かに仰るとうりです。同感!
 自分たちに都合の良いところだけの摘み食いで論を組み立ててアレコレ主張し行動してはマズイです。
 自分たちに欠ける所への確かな分析に基づき、将来への展望と方策を立てて行動すべきです。
Posted by ながさわ さとし at 2014年02月07日 09:39
いつも楽しく拝読してます。マスコミももっと突っ込んでもらいたいところです。ビジョンも感じられないところで、基準を変えることには矛盾を感じます。自助努力をするところに信用がついてまわるものと思います。今後も楽しみにしてます。更なるご発展を祈念致します。
Posted by 田中 貴雄 at 2014年02月07日 09:47
その通り、日本民族の限界かも。
二児の父親になっている三男が、小学生の時の家内との会話を思い出しました。
家内が、友達を見習って勉強しなさいと言う。
今度は、三男が友達が持っているのを、買ってくれと言う。家内が何でも友達の真似はしない!と言う。この矛盾を三男は見事についていました。その三男も家内が感心する程、子育てに精を出しています。私には出来なかった子育てに。
宗さんの指摘の答えは、

政財界のトップの世代交代の加速が解でしょうか。
Posted by 伝三郎 at 2014年02月07日 09:47
仰るとおりだと思います。
経済人に媚びを売る代議士の方も問題だと思います。
Posted by 馬渡範久 at 2014年02月07日 09:52
世論もメディアも、安易に1方向に振れるとき、揺り戻しをかけてくれるのが宋さんのメルマガで、読みながらうんうん、と頷いています。なので、いつも楽しみにしています。
目先の安定と利益を求める企業人が大多数であるとしたら、少数派なのかもしれませんが…宋さんにこれだけのファンの方がいらっしゃるのは希望だと思っています。
Posted by Crossing Point at 2014年02月07日 09:53
今朝、評論家の小沢遼子さんが”日本のマスコミはなっていない”的な発言をされていました。 今回の宋さんのお話にしても、現在の日本の全てのマスコミが、一部の政党の傀儡と化し、ものを考えない、事なかれ主義の国民を造り、洗脳・煽動しているよい例ではないでしょうか。
Posted by 鈴木健一 at 2014年02月07日 10:03
最後から2番目のブロック、「消費税を上げたい時は…」、切れ味バツグンですね。このポイントで政府姿勢をもっともっと批判していくべきですね。
Posted by ケロです。 at 2014年02月07日 10:45
宋さんのご意見、まったくもってその通りです。経済界だけではなく経済学者も自分にとって都合がよい比較対象を選択して議論している。こんな論理を紹介するだけのマスコミの勉強不足が目立ちますね。経済同友会、経団連、経済学者とかの論客・識者と称する人物たちの話は眉に唾して聞くべきです。
Posted by 若菜 at 2014年02月07日 10:52
200%そのとうりですね。
それだけ経団連の幹部が小物になったと言うことでしょう。
新入社員も海外勤務を嫌がる人が多くなるなど、老いも若きも「老害」が日本を覆っています。老害の致命傷は「保身」です。
円高や規制ではなく、経営者の成功体験への固執と保身、これが海外で負け続ける最大の要因だと思います。
Posted by G19 at 2014年02月07日 11:02
全く同感です。

周辺国との関係をよくしてビジネス環境を整えることは、法人税を下げることよりも重要だと思います。

企業は、常に品質向上し、価格競争に巻き込まれないように努力しています。政府も法人税の値下げ競争に参入するのではなく、投資環境の品質向上を目指すべきと思います。

法人税を下げるなら、消費税を財源とするのではなく、国の経費を削減するべきです。例えば、各省、各自治体毎のバラバラのシステムを統合するたでも財源は出ると思います。

それだけでも、法人税を下げなくても不効率な行政手続きに対応させられている企業のコストも下がります。
Posted by 堀内 at 2014年02月07日 11:29
海外企業の日本進出が実行税率引き下げで実現できる、との乱暴な議論が政財界最高幹部から出て来る事は、人材の質的劣化の証差。国家の将来像を高く掲げる人物が不在。
 
Posted by 山崎俊一  at 2014年02月07日 12:15
初めまして。いつも メルマガ 有り難うございます。
 宋さんのお考えは「自助努力」が基本ですので故ケネデイ大統領の言葉をおもいだし「気分爽快」です.今後も拝読さしていただきます。
Posted by ふじた まさお at 2014年02月07日 15:23
宋さん、メルマガをいつも楽しく拝見させていただいてます。ありがとうございます。

私は日本人ですが、「空気を読め」みたいな「雰囲気」で周囲を巻き込んでいくようなきらいがあるのが日本国の弱点ではないかと思っています。反面、「みんなで気持ちを合わせて頑張ろう」というところは利点だと思っています。

ところで、日本では、輸出売上には消費税がかからないという認識を私は持っているのですが(誤りがあればご指摘ください)、となると、輸出割合の大きい企業は消費税の実質負担額が減り、フリーキャッシュフローの増加となるように思われるのですがいかがでしょうか。

今回の消費税の話については、資本力のある大企業には願ったりかなったりでしょうが、国内取引に依存する中小企業にとっては全く優しくない政策なのかな、と、私の単純な頭は結論付けてしまいます。

また、労働者賃金のベースアップの件ですが、年1%程度のものでは、社会保障費の膨らみ方や今後の消費税率の増加を見据えると焼け石に水滴程度のものだと感じてしまうのは単に私がアホだからであることを祈ります。

この国の政策が、どこの国のために行われているのか、誰がきちんと説明してくれるのかが気になります。
Posted by うだつがあがりません at 2014年02月07日 15:28
宋さん

いつもの通り、正に正鵠を射たご意見です。
諸手を挙げて大賛成です。
「国が、国が」と要求ばかりする限り、この国は借金まみれで、いつかはIMFにSOSを発することでしょう。

ただ、一部のコメントの「ちょうちん持ちのマスコミ(マスメディア)が悪い」には、少し異論があります。
マスメディアの程度は、所詮受け手のそれを超えません。はっきり言えば「民度」に依ります。
(芸能人が馬鹿騒ぎするだけの低俗番組が跋扈するように)

今の政権を選択したのは、ほかならぬ選挙民です。この国を進路を決めるのは、政治家ではなく、彼(彼女)らを選ぶ国民です。

これからも的を射たご意見、ご指摘をお待ちします。
Posted by 酒見謙二 at 2014年02月07日 15:50
宋さんが「古い経済人」に「あれこれ国の政策を変える暇があれば、国際競争力を強化する企業努力したらどうでしょうか」仰ることに基本的には賛意を呈しますが、経済人が自分達が優位になるべく政策を求めるのは言論の自由を持つ国では当然だと思います。経済人が直接国の政策を変えるようになれば、議会制民主主義の崩壊に繋がりますよ。
また、宋さんの主張だと思いますが、「原発を再開したいときは中国と比較する」という表現は飛躍しすぎではないですか?「原発再稼動派」の主な主張は、「原発停止=安全とはならない」「数十年に亘る廃炉への技術を継承する研究者・技術者を育てなければならない」「既に存在するプルトニウムの処理をどうする?」等々です。安易に「原発停止論」を「中国との比較論」に摩り替えないでいただきたい。
Posted by 田中 晃 at 2014年02月07日 17:12
自分に都合のよい部分だけ利用するのはよろしくないことです。賛成します。

うちのような中小企業、年金暮らしの私の親たちは、辛くなるだけです。

大企業の従業員もそうかわりません。現在うまく行っているように書き立てられている大企業でも、実は為替で浮き上がっているように見えるだけで、実質よくなっているという実感はないはずです。税金が安くなっても従業員に還元するどころではなく「ほっとする」だけかと思います。

都合のよい話だけ取り入れて自分を正当化する「するいやつ」は、目先のお金儲けでは勝ちやすい。おそらく私が死ぬまでそうなのではないかと思っています。それでも私は、自分たちの会社は、どんなに小さくとも常に正道を行き、嘘や詭弁を用いず、お客様の幸せを増やすことで数字もついてくるような会社にしたいと思っています。
Posted by 齋藤 at 2014年02月07日 18:22
経団連は「終わった組織」だと思っています。宋さんの講演を聞いた際、ホテルで経団連のオジサンからボーイと勘違いされた話を聞きましたが、腕一本でのし上がった宋さんが既得権にしがみつく経団連を嫌うのは十分理解できます。
ただ、政治はもともとエゴの調整という色彩が強いもの。各業界・業種の団体は、それぞれ自分たちの都合の良い方に誘導しようとせめぎあっています。戦術的に自分の都合の良いようにふるまうのは普通のことです。農協やいわゆる「組合関係」の団体などはもっとひどい理屈を平気で述べています。
宋さんだって日本のマスコミの悪口を散々言っているのに、使ってくれる放送局、出演している番組については隕石発言を一方的に「不適切」と言われても平気ですよね(個人的にはあの件は日本テレビが一方的に悪いと思っています)。
経済人は国に甘えるべきではないというのは正論ですが、少々経団連に対する感情的なものを感じたので指摘させていただきます。
Posted by H.Mari at 2014年02月07日 22:23
まったくもっておっしゃるとおりだと思います。

しかし、もっと思い切って言ってしまえば、主流的な地位にある日本の企業経営者は、楽をした結果、能力が衰え、退化あるいは劣化してしまったのだと思います。
なんでもそうですが、人間楽をし出すと、それまではできていたことができなくなります。
皆さんも覚えがあるでしょう。私もあります。

こんなていたらくでは、ますます競争が激化する世界で、生き残れるのか、勝ち残れるのか、はなはだ疑問です。
そのうち今度は、時の政権に、
「売上ください。利益をください」
などというのでしょうか?

本田宗一郎さんや小倉昌男さんが、あの世で驚きかつ呆れていることでしょう。
Posted by 砂押 英文 at 2014年02月07日 22:37
いつも、楽しみに拝読してます。

日本メディアが書けない?内容で!素晴らしい。

是非、本に、すべき考察。プロ。素晴らしい。です、ありがとう。御座います。
Posted by 浅海涼 at 2014年02月07日 22:49
宋さんのメッセージは、同意できるときと頚を傾げるときがありますが、今回は、諸手を挙げて同感です。
Posted by 水野成司 at 2014年02月07日 23:44
賛同します。
ここに経団連の会長がコメントを寄せ、皆で議論が 盛り上がる。妄想でしょうが、そんな事が起きればもう少しまともな世になるのではと、またまた妄想しております。
Posted by 松原 正幸 at 2014年02月08日 07:00
「類は友を呼ぶ」、安倍政権も政権を取り巻く所謂経済人も自己保身、他力念願、右翼傾向の輩ばっかり。これでは全うな経済政策なんか出せる訳がない。
あれもこれも日本の制度疲労、日本人の質劣化によるものと考えます。制度疲労により、見識のある方は政治家を目指さなくなり、日本人の質劣化により詭弁者、嘘つきしか当選出来なくなっている。
じゃあ、これから日本はどうなるの?
「窮すれば通ず」失われた20年と言えども、日本は立派な先進国で、豊かさも隣国に比肩されるまい。要は日本はまだ窮していない。日本は国で言えばギリシア、会社で言えば米国GMの様に一度破綻しないと、再建は無理かもしれない。
Posted by 一途得多 at 2014年02月08日 10:27
ひとつの記事に対してコメントを2通出すのは初めてなのですが、ご容赦ください。

他国がどうかは知りませんが、顧みてみれば、少なくとも第2次大戦後のこの数十年間、日本の企業経営者は、総じて甘やかされてきたと思います。

公害も含めた環境問題や販売した製品の欠陥問題が起きた時、多くの企業の責任は誤魔化されたり減免されてきました。
水俣病、森永ヒ素ミルク事件、カネミ油症事件・・・、まだまだありますが、いずれも加害者の責任は小さくされ、被害者への手当は抑制されてきました。
労働問題でも同様で、多くの裁判では企業側に偏った判決が出る傾向が強くあります。

これらに共通しているのは、企業の繁栄を優先させ、個人の権利や尊厳を抑制するものの考え方です。
そして、現在進行中のアベノミクスにも同様のものが感じられます。

しかし、こんなことばかり続けていたら、多くの企業経営者は楽をすることばかり覚えてしまい、ますます退化していくだけのように思えてなりません。

もっとも、経営者側にしてみたら「経営に専念するために、それ以外のことでは余計な労力は使いたくない」ということなのでしょう。
でも、実際にはどうでしょうか。

数年したら「もっと税金を下げてくれ、もっと規制を緩和してくれ」という声が上がるのではないかと予想しています。
いったいどこまで税金を安くして規制を緩和すればいいのか、法人税ゼロ、規制全面撤廃、そこまでやってもまだ何か言ってくるとしたら、相当なものだと思いますが、そこまでいくのでしょうか。
Posted by 砂押 英文 at 2014年02月09日 11:43
おっしゃる通りだと思います。経済界のご都合主義はこまったものですが、しかしもっと怖いのは、消費増税をあてに5兆円の補正予算を組んだり、自然増収があればその分を使ってしまおうとする政府はじめ官僚・政治家の締まりのなさは、日本の将来を真剣に考えているとは全く思えませんね。
Posted by 宮崎和彦 at 2014年02月10日 10:47
正論だけでネゴに勝てれば苦労しないよ。
それが国際競争でしょ?
じゃあ、古い経済人と新しい経済人の比較もなく言われても「あんたも都合のいい言い方してるんじゃないの?」と思いました
Posted by 大西 at 2014年02月10日 16:24
経済人に限らず、日本は言い訳しか出来ない集団が増えている気がする。ソチ五輪でも随所見れる。倫理、正義、大儀で物を言わせるのではなく、「空気をよめ、長いものにまかれよう」と言いくるめる。これで日本が衰退の道をたどる理由は分った気がします。
Posted by Preston. Lee at 2014年02月12日 13:31
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