経営の神様の弊害

会社を創業した頃、私は経営の神様の本をたくさん読みました。読めば読むほど訳が分からなくなり、自信を失っていきました。素直に納得できない自分が経営に向いていないと思いました。

やる気と能力のない社員は良い企業に就職ができません。マンションの一室で創業を始めた私の会社の社員になってくれるのは他の会社に就職できない方です。彼らは「就職してやったぞ」みたいな顔をして「普通の会社では・・・」とよく私を説教するのです。

90年代の経営の神様の本には「社員は家族だ」、「終身雇用は日本企業の強みだ」などと書いてあります。「このような人を家族にしたくない」、「人様を終身雇用するより、自分の会社が何年もつかが心配だ」と思いながらも、苦悩する日々でした。

結局、私が経営者として少し成長し、やっていけるようになったのはいわゆる著名経営者の本を読まなくなったからです。

「私心がない」人は創業する訳がありません。あれだけの苦労とリスクを背負うのでだから「お金を儲けたい」「美人の彼女が欲しい」「人に尊敬してもらいたい」などの私心と私欲がないと創業する訳がありません。

そもそも「経営の神様」と言われるような人達をよく観察すれば普通の人以上に私心があることが分かります。金銭への執着だけではなく、嫉妬心や名誉欲が人一倍あります。彼らが成功した理由の一つはその私心が普通の人よりとてつもなく大きいからです。

大きな私心は野心というのです。大きな野心は志というのです。大きな志は必ずしも世の中のため、他人のために持つものではないのです。自分のために持つが、結果として世の中のためになることが多いのです。自分のためなのに他人のため、世の中のためとばかり宣伝するから欺瞞性を持つのです。

「私は自分のために頑張りました」という経営者は絵になりません。社員も聞きたくありません。講演も著書も売れません。そんなことをいうと宣伝になるどころか、逆にイメージが悪くなるのです。だから宣伝したい経営者の多くは宗教のような精神論と美徳を本にするのですが、問題は彼らの後には立派な後継者が育ちません。

経営者が育たないどころか、経営の神様が亡くなった後、彼の企業はだいたい衰退するのです。時代が激しく変化するのに、後継者達は神様の宗教によって思考が固定化されたからです。

ところが一個人として著名な経営者と会うと、彼らの人間的魅力に惹かれることが多いのです。天性の人心を読む力と苦労苦難の磨きによって成功した経営者には人間的魅力があるのは普通です。

この魅力は各分野でリーダーシップを取る人達と共通しています。自立した個人として自分を律することができます。普通の人が自然にむき出しになる小さな私心を隠せるからこそ、普通の人が見せる無責任を我慢しているからこそ、彼らにはリーダーシップがあるのです。

時間の推移に連れて他人より先に損する、他人より先に責任を取る、目の前のことより先のことを考えるという癖が身についてしまいます。それがリーダーの出来上がりです。

本当は「経営の神様」と言われて恥じるべきですが、喜んで受け入れること自体は私心です。自分から経営の神様のように振舞えるのはもっと恥じるべき行為です。経営ノウハウとリーダーシップは成功より失敗を通じて身に付けることを、誰よりも経営の神様自身がよく知っているはずです。


この記事へのコメント
私の思っていることと同じです。とても共感しました。しかし、普通の企業人がこれを言うと、もの凄いバッシングに合います。宋さんとて、或る程度の曲解による非難は避けられないと思います。それを承知でメルマガ配信される心意気に感心します。
Posted by かきのきひろし at 2013年07月05日 08:31
宗さんの今回のメールは小生が普段もやもやと感じていたものを吹き飛ばしてくれるものでした。先日、福島県郡山市で行われたI塾のI氏の講演を聞いたばかりでしたのでなおさらです。
Posted by 安斎眞治 at 2013年07月05日 08:37
宋さんのブログ、いつも楽しく拝読しております。

今日の論点は、正に我が意を得たり・・・です。

一時は私も経営者の本を読みましたが、どうも腹に落ちてこないのです。

宋さんが言われるように、自ら悩み・考え・失敗・反転していく中で自分自身を成長させていくしかないのだと思います。
Posted by 上野 陽一 at 2013年07月05日 10:00
今朝、宋さんと同じことを考えていました。というのは、昨日参院選が始まり、ある新人候補の出陣式に立ち会いました。「地元のため、日本のためにお役に立ちたいという志で○○省を辞し、立候補しました。どうかわたしを・・・・」というお決まりの演説でしたが、そんなことを信じるのは生まれつきのお人好しだけでしょう。40代そこそこでこんなカドの無いきれいな志だったら気持ち悪いし、政治家として大成はしませんよね。まあ、そのうちにもっと巧みに私心を表現する方法を会得するのだとは思いますが。
Posted by 退屈夢想庵 at 2013年07月05日 11:33
聞き入るお話でした。
真実を語る宋さんは、気持がいい。
Posted by 加地慶子 at 2013年07月05日 13:24
経営ノウハウから一歩経営哲学に踏み込んだ話ですね。
問題の本質は奥深く隠れていて、本当の顔を見せないと言うように、経営の神様もそうなんでしょう。
神様もピンキリと言うと罰当たりかもしれませんが、貧乏神なんて言う神様もいますし、トイレの神様もいるそうですね。
経営の神様のありがたいお言葉も、念仏として唱えながら、トイレの神様の言う
「カミに見放されたら、自分の手でウンをつかめ」
が現実的な話でしょうか。
Posted by 伝三郎 at 2013年07月05日 14:16
「普通の人が自然にむき出しになる小さ
な私心を隠せるからこそ、普通の人が見せる無責任を我慢しているからこそ、彼らにはリーダーシップがあるのです。」

まさに今悩んでいることが、ストンと理解できました。
私心むき出し、無責任なリーダーに限って、「日本は和を尊ぶ社会で…云々」とのたまって自分たちの私心や無責任を隠そうとしています。
偏狭なナショナリズムは、愚か者の最後の拠り所ですね。
Posted by backy at 2013年07月05日 14:46
お久しぶりです。
実に面白いです。私の付き合ってきた社長、会長達も正にその通りです。
Posted by 佐藤 潔 at 2013年07月05日 16:04
宋氏のメールを拝見し、常日頃からの私と同じでした。やはりそうであったかという感覚です。私は実は地方自治体の職員です。公務員=全体の奉仕者ですが、自分が満足したり、やりがいを感じないものは良いサービスにならないと思っています。仕事は自分のためにやっている。自分の好きなものをやる。ということを公言しています。ただし、公言するからには、独学で知識を得、外部の方との意見交換に精をだし、成果を追求します。
現在、中小企業支援に携わっていますが、熱い想いだけは人一倍強いものがあるというのが私の強みです。
今後とも、楽しみに拝読させていただきます。ありがとうございました。
Posted by 伊藤元司 at 2013年07月05日 19:05
経営者の「世の中の為に…」と思う気持ちはどれくらいの割合かは人それぞれだと思いますが、宋さんの言う事は一理あると思います。なんだかんだ言っても競争社会の中で一般的に他よりも勝ちたい(成功したい)と思うものですよね。大なり小なりみんな(経営者以外の方でも)私心はあると思うので、本音だと思います。宋さんの言葉で「…普通の人が見せる無責任を我慢しているからこそ…」のへんに部下はリーダーの器を感じている(見ている)のかもしれません。
Posted by リーダーでない者 at 2013年07月05日 19:40
 経営の神様の本ですが、これに限らずこの種の本は、名を成した人が成功した後に過去を振り返って書いているので、そのとき(会社を起こした時、発展させようとあるいは倒産させまいと苦労しているとき)に書いたものではありません。
 もしそのときのことを正直に書いていれば内容はもっと違ったものになるでしょう。きっともっと宋さんの腑に落ちるものなったにちがいありません。
 私も現役時代この種の本を読んだことがありますが、当たり前すぎて何の参考にもなりませんでした。ちょうど、株で儲ける100の方法と言った本を読むのと同じです。原則は何も変わりません。と言うより本当に困っているとき社員を家族と思って大切にするなんて眉唾物です。ちょっと不遜で、捻くった考えでしょうか?
Posted by くらげ at 2013年07月05日 21:37
今回の宋さんの記事、申し訳ないのですが、どうも論旨がよく分からないのです。
と言うのは、宋さんが読まれた「経営の神様の本」というものがどういうものなのかが分からないからです。

私がこれまでに読んだ、企業経営者に関する本のことを、簡単にではありますが、申し上げます。
実際の書名を出さないと意味が無いので、書名を出すことも含めて、結構露骨に書かせて頂きます。

ひとつ目は、故城山三郎氏の著書『本田宗一郎との100時間』です。
この本は、城山氏が、本田技研創業者の故本田宗一郎氏を、約100時間にわたって密着取材をして書いたものです。
内容は、同行記(インタビュー含む)と本田氏のそれまでの人生での歩みを綴ったものでした。
最初に読んだのが20年ぐらい前で、今でも時々読み返しますが、強く印象に残っているのは、副題にもなっている「燃えるだけ燃えよ」という言葉をキーワードとして要約できると思われる本田氏の言動です。
本田氏がそうした気概を示して行動し続けたからこそ、優秀な人材が集まって、創業以来短期間であれほどの企業に成長したのではないでしょうか。
簡単に言えば、本田氏は、自身も言っているように仕事に物凄く執着しました。そして、自身が創業した会社に自分の身内を入れないなどのことによって(実弟が一時期いたことがあったものの、早期に出しています)、私的欲望も持ち込みませんでした。
今回の記事で宋さんの示した考え方では、説明しづらい事例だと思います。

ふたつ目は、高杉良氏の著書『労働貴族』です。
この本についてはいろいろな見方ができますが、私は、この本の主役は、1970年代から80年代にかけて日産自動車の社長を務めた故石原俊氏であったと思っています。
当時の日産は、労働組合のトップが絶大な権力をふるって、経営の領域にまで容喙し、まともな企業活動ができない状態でした。
そうした厳しい状況を耐えつつ、なんとか経営を進める、言わば耐える経営者として石原氏が描かれていたことが強く印象に残っています。
私達の日常の仕事やそのほかの活動でも、思い通りにいくことはほとんどありません。
でも、そういう状況に流されて怠惰に過ごしていてはいけないということを、この本を読んで、改めて痛感させられました。
怠けてはいけない、努力しなければいけない、誰もが知っていることですが、本当にそれを自身の血肉のようにしている人がどれぐらいいるのか、ということを考えると、この本の存在意義は大いにあると思いますし、石原氏もたいした人物だと思います。

締め括りの3冊目は、経営者自身が書いた本です。
ヤマト運輸2代目社長にして、宅急便生みの親でもある故小倉昌男氏の著書『小倉昌男 経営学』です。
この本は、小倉氏の自伝的な部分と、小倉氏の経営判断のもととなった思考について述べた部分から構成されているのですが、際立っているのは、小倉氏の緻密な思考です。
多数の実例があるので絞って挙げますが、労働生産性向上のための施策として、荷物をカゴ付台車に入れた状態のままトラックに積み込んだことと、長距離輸送の際の工夫があります。
それまで、荷物はひとつひとつトラックの荷室に積んでいたのですが、大型車で積み卸しに数時間を要していました。
それを小倉氏は、入荷するたびにカゴ付台車に積載して、それが溜まったら台車ごとトラックに積み込むようにしたのです。
台車のスペース分積み込める荷物は減りますが、積載に要する時間は大幅に短縮され、トータルで効率向上になったそうです。
また、以前は長距離輸送のトラックは、例えば東京から大阪に行く場合とか逆に大阪から東京に来る場合は、基本的にトラックも運転手もそのままの組み合わせで動いていました。
これだと労基法の規定により、ドライバーに休暇(確か2日間)を与える必要が生じます。
しかし小倉氏は、トレーラーを活用することによって効率向上を図りました。
本に書かれていたことでは、東京から大阪に向かうトレーラーと大阪から東京に向かうトレーラーを中間の浜松辺りで落ち合わせて、荷物を積んでいるシャーシーの部分を入れ替えて、東京から来たドライバーは東京に戻り、大阪から来たドライバーは大阪に戻るようにしたのです。
「コロンブスの卵」と同じで、今になって思えば「なんだそんなこと」と思ってしまいますが、当時とすれば画期的な発想であったことは間違いないでしょうし、たいしたものだと思います。

長々と書きましたが、私は、企業経営者について書いた本や経営者自身が書いた本から、結構得ているものが多々あると思っています。
企業経営者もそれに関する著書も千差万別玉石混淆だと思います。
宋さんがどのような本を読んで、どのように考えたのか、その辺がもっと具体的ならば、宋さんのお気持ちも分かりやすかったと思うだけに、残念です。
Posted by 砂押 英文 at 2013年07月06日 13:15
要は自分には関係ないし‥実感湧かないわぁ‥みたいな調子が続くと
宙ぶらりんな人々にとって絵空事に過ぎない&意味ないやんってことでしょうか。
退屈な本を無理矢理読み漁る暇に耐えれないから
自分なら素敵な小説読破しちゃったほうが遥かに脳細胞も喜ぶ。

ていうか、神様の本は額縁に納める作品で飾って楽しむものでは*
趣味やないひとにはお宝でも何でもないね。




Posted by 原口 智衣 at 2013年07月07日 16:07
この内容とは関係ないですが。

うち、自分のことを許せない許せないと想っていたら
精神科にお世話になることになったんです。

宋さんの言葉に触れるとすこし、元気になる。
自分を許せるようになりたいって想えます。
‥時々ですけどね^^

居てくれて嬉しい存在。
日本に来てくれて、今更ありがとうござうます。




Posted by 原口 智衣 at 2013年07月08日 13:54
ビジネスは所詮カネとモノとの交換です。世のため人のためと言うならば、すべて無償で提供すべきです。それができないならば世のため人のためと言うべきでないです。
また、経営の神様を祀りあげた時点でその会社は革新ができなくなり終わっています。
Posted by 高橋和宏 at 2013年07月08日 23:54
宋さんのブログや本が大好きで喜んで読ませて頂いております。
但し、今回の「経営の神様の弊害」の記事はあまり感心いたしません。
経営の神様は商いの才覚がずば抜けていたから商売は成功したと思いますが、それよりも寧ろ
@「信念」が強かった。
A人に好かれた。
B先見性(夢)(理想)があった。
からだと自分は思います。経営の神様は【道端にある水道をちょっと水を飲ませてと言って誰でもが水を飲ませてもらえる】、同じように電気というエネルギーを便利に使って【誰でもが安価にTVが見られる】等、皆が喜ぶ商品を出して行った結果ではないか。今現在の現状を見て分かる通り時代を牽引したと、また、本の一部を捉えそれが原因のようにコメントされていますが弊害どころでは無いと思います。

今回はそう感じましたが、勿論これからも宋さんの記事は楽しみにしております。
Posted by 江原信夫 at 2013年07月10日 19:22
起業して必死に頑張ってる時は成功したい!自分の実力を世間に認めさせたい!と言う気持ちが必要です。誰よりも気持ちが強い人が結果、大きな企業を作る。ただ晩年、本を書くような時は成功し、お金もこれ以上はいらない(仕組みで安定的に収入がある。)から本当に何か貢献したい気持ちになっているんだと思います。こういう本はそのまま実行する使い方でなく刺激としてもらい、俺もいつかは成功者になってやろう!って気持ちになれたらいいのだと思います。経営者セミナーなどにいくと創業者の話は凄く刺激があります。反面、雇われ社長や2代目、教授や先生と言われる人たちの話は決まりきっていて教科書通でつまらない話が多いように感じます。人に後で言われたくないと言う気持ちが先行し教科書どおりですので何人か話を聞いてると、同じような内容だったりします。そういう意味では創業者は自分流てきな人が多く、お金もなかったわけですから勉強をして頭がこりかたまってないからなのかもしれません。話を聞くと、人に恵まれたとか、ついてたとか、偶然という人が多く、このような話を本にするとますます分からないので、人の意見などを参考に教科書どおりにし且つ法令遵守で書き上げるんじゃないでしょうか?ソフトブレーン時代の宋さんの話も聞き、質問もさせて頂きました。ありがとうごさいました。
Posted by 中嶋 at 2013年07月18日 12:54
宋様 初めてコメントを書きます。長文になる事をお許しください。いつも大変楽しく読ませてもらっています。ありがとうございます。
今回の内容を拝見してから、欲のレベルによる質の違いにもっと着目するべきとずっと思っておりました。自分の考えをまとめるのに時間がかかってしまい遅いコメント書きとなってしまいました。
私心 大いに結構だと思います。世界の人々を救いたいと考えた聖人はまさしく大欲をいだいた欲の塊です。欲を持つことを悪いように考える国民性が日本人にはあります。これは他人を押しのけても自分の我欲、小欲、私欲を満たさんとする浅ましい行為が連想されるからかもしれません。人間は低次元の欲望を渇望し、それを今まさに満たす行為に及んだとき本能的とも言うべき醜い所作をさらしてしまう場合が多いように感じます。例えば貪り食って食欲を満たす行為などです。これらを押さえるためにテーブルマナーが醸成されたと思うのですが、経営の神様なる方が盛んに私心無かりしかと自らの行為に問うのはテーブルマナーのようなものかもしれません。我欲、小欲ではなく、世の中の役に立つ事業を立ち上げる大欲であるかを何度も繰り返し自らに問う行為と思います。
与える事ができるのは、より多くを持つものにしかできないという言葉がありますが、人はより豊かに、より幸せになるためもっと大きな夢とそれを実現するための大欲を持ち行動すべきと思います。小欲はしょぼいし醜いと私も感じます。そういった意味では経営の神様に少し共感できる自分がいます。敗戦後の荒廃した日本を経験した創業者の気持ちを思うと宋様のように手厳しい否定は私にはできません。
以上 愚見でございました。
Posted by 瀬沢 外茂幸 at 2013年07月19日 18:16
あなたの内容がとてもよかった。
Posted by 千種花子 at 2013年07月22日 14:14
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