人材の宝庫と人材の倉庫

先日、数年ぶりに大手ゲームメーカーのCEOと会いました。古い友人であると同時に年齢も近いためか、挨拶もそこそこにいきなり聞かれました。「宋さん、今の日本が抱えている一番の問題は何だと思いますか。」

「人材の流動性の問題だ。」トロイ私を気に介せず、いつものように彼は自分の結論をずばりと言った後、「新しいサービスを始め、新しいマーケットに進出したくても必要な人材を確保できない。居ないからではない。人材が企業に固定しているから必要なところにシフトできない。」と解説してくれました。

そういえば、以前、私は博士だけでも千人以上居る大手メーカー社長に言われました。「宋さん、わが社はまさに人材の宝庫だ。しかし、彼らの才能を活用するのは大変だ。」と。これに対して私は「自社だけで活かそうとするから問題です。人材の宝庫ではなく、人材の倉庫になりますよ。」と答えました。

その社長の苦笑いは今も忘れませんが、この問題は経営者だけで解決できる問題ではありません。安定志向の社員意識、終身雇用を是認する社会風土と社会保障システム、失敗を恐れリスクから逃げ回る若者。どれを取ってみても人材流動性を阻害する要因になっています。

実際、いまだに終身雇用を享受しているのは大手企業の正社員だけなのです。中小企業は昔から終身雇用ではありません。したくてもできないからです。日本企業の海外法人は昔から終身雇用ではありません。外国人は誰も終身雇用を有り難く思わないからです。良いなら長く居ますが、自分を活かしてくれないなら転職するのはあたりまえです。

メンツだけのための終身雇用が日本的格差を作り出します。同じ仕事、同じ労働時間、同じ成果に対して報酬は契約社員や派遣社員が正社員のそれの三分の一。この格差はもはや格差ではなく、差別なのです。法治国家というのによくできるものです。

優秀な人材が大手の正社員になりたいのはこの特権のためです。一度手に入ったら失う恐怖に怯えて組織に媚を売ってもしがみつきます。転職したら地位も年収も転落するのでする訳がありません。

椅子取りゲームのように皆が立ち上がればまた平等にチャンスが回ってきますが、誰も椅子からお尻を離さないから立ち上がる人は新しい椅子がないのです。

しかし、世界情勢とマーケットは激しく変化しています。それに対応していくには自家製の人材を無理やりはめるよりも適材をマーケットから確保したほうが良いに決まっていますが、流動性がないから本物のマーケットが形成されないのです。

社会の活性化においても流動性の欠如が邪魔しています。活性化の多くは景気の改善や制度の刷新によるものではなく人間の新たな出会いと組み合わせに伴って起きるものです。GEの元CEOのウェルチが言いました。「人事は化学反応と同じ。反応しあう者同士を会わせれば良いのだ。」

反応しない者同士に毎日無駄な教育とモチベーションアップをやっても決して何の活性化も起きません。流動性を高め、反応する者同士が出会う機会を増やすことこそ、化学反応を起こす基本条件です。その化学反応に伴って活性化というエネルギーが自然に放出され、人材の倉庫が自然に人材の宝庫に変わるのです。


この記事へのコメント
大企業は人材の倉庫とは言いえて妙ですね!
大企業に入ると、仕事が分業になるので、自分にどれほどの能力があるのか見えなくなると思います。
企画から市場調査、設計、製造、販売全体を見ることは不可能ですね。
外注業者からもちやほやされ、本当の自分が見えません。
思い切って20代のうちに転職しないと一生転職の機会はなくなると思います。
中小企業に転職すると、経営状態がすぐ見えます。そして自分が何をしなければならないのかもすぐわかりますし、全てに目を配らねばならないこともすぐわかります。
これまでとは打って変わった生活になるでしょう。
緊張感が漂い、仕事をしているという充実感が味わえます。
しかしこれも20代で転職しないとむつかしいです。生活がかかってきますし、転職がますます怖くなってきます。
大昔の私の経験から。
Posted by 片貝孝夫 at 2011年10月14日 08:28
おはようございます。
お金が流れなければ意味がないように、人も流れなければ意味がない。
能力があるなしにかかわらず、人は安定を求めます。とりわけ日本人は変化を嫌います。私自身も変化は嫌いです。しかし、生き残るためには大切なものを守るためには変化するしかないのです。
今日のやり方が明日通用しなくなる。
常に考え続けるしかないのです。
大変な世の中になりました。
ありがとうございました。
Posted by ごろんた at 2011年10月14日 08:37
鋭い指摘だと共感致します。昔から企業は人なりと、いい古された言葉が「馬の耳に念仏」的になっていて真の意味が理解されず、この事が日本の縦社会での弊害にも繋がっているのでしょうか。これは人材だけでなく「ものづくり」も共通点があるように思います。大手の製造メーカーが研究開発をしている部門には日の目を見ない開発品が五万とあります。処がそんな中に発想の転換をして用途開発をしただけでヒットに繋がる物が多々有るようです。人材の発掘も目利き役が居て二者間或いは三者間を有効に繋ぐ人材こそ必要ではと感じます。
Posted by 新原 幸雄 at 2011年10月14日 08:57
宋さん

いつも楽しませてくれてありがとうございます。
問題点については我々日本人も十分承知しております。しかし、どうすれば、状況が変わるのかはについては問題指摘が多いものの、妙法がなかなかみられないのが残念です。また、「窮すれば通ず」、わが日本は未だまだ窮地に遠いので心配はご無用です。
Posted by 得多一途 at 2011年10月14日 10:22
被雇用者の立場から申し上げます。
少なくとも働く気がある人間はその会社の10年先20年先を考えて働きます。成果を上げれば会社が成長し、その報酬として給与が増えます。
昔の日本企業は「人は石垣人は城」と考え、採用した人間を長期雇用して育て上げ幹部社員のような、長期視点から仕事をする人材を育ててきました。
それが不定期雇用になると先を見て働く気持ちが失せます。そして企業を育てようという気持ちがなくなります。「給料分だけ働けば良いさ」という考えです。
その意味では正社員でも定年直前になると長期視点がなくなります。
働くレベルの問題でしょうが、毎日少しでも成果を上げる必要のある工員や営業現場の社員ならば、不定期雇用でもかまわないと思いますが、研究開発や企画など長期的展望を必要とし、何年かに一回の成果を上げれば良い仕事を手がける社員には安定した雇用が必要だと思います。それが日本をこれだけの経済国家にしたと思っています。

労働力の流動性を阻害しているのは日本企業の人事制度ではないかと思います。日本企業の多くは新卒一斉採用を行い、中途採用の社員と差別をしているのではないでしょうか。ですからみんな会社にしがみつきます。
Posted by 上田 信夫 at 2011年10月14日 10:49
現状の採用基準は、同色の反応のみを採用し、異色を拒む事が顕著です。現場では、同系以外でも化学反応を見せるのですが、なぜか上へ行けば行くほど、同系反応以外は受け付けない様です。これでは、化学反応を期待し転職活動をしている人は疲弊するばかりです。
確かに色が変化するのは既存社員にとっては好ましくなのでしょうが...いつまでも単色だけで生き残れるとは、思えないのです。
悩ましいですね。
Posted by mariko at 2011年10月14日 11:57
椅子とりの譬えが本当にわかりやすく、共感できます。20代でも30代でも、日本人は新しい椅子を作るという発想がまだまだ他国に追いついてません。古い椅子にじっとしているより、魅力的な新しい椅子があり、リスクも小さければ誰でも立ち上がります(笑)日本独特の文化である、学歴・会社名で人を判断するという部分に縛られてしまっている会社員が多いのは事実ですし、転職や起業を奨励するような大企業がないことも残念です。ただ最近の若者は忙しいワリに給料が全然あがらないことに気付き始めてますので、既得権益にしがみついている人達もそろそろ覚悟するときが近づいているのではないでしょうか。
Posted by 九州男児 at 2011年10月14日 11:59
人材流動性が大問題であることに同意します。
打開策は、やはり同一労働同一賃金化に企業・組合が取り組むことでしょうか。
立場上就活中の学生を間近に見ていますが、彼らにとっては椅子取りゲームに参加することが当面は「合理的」であり、求職者側から状況を変えるのはとても難しいと思われるのです。
現時点では、マスコミも含め正社員化を目指すべき」とのイメージが根強く残っており、同一労働同一賃金化より、正社員になれないことが問題とされているようにも感じます。一刻も早く状況を変えたいものです。
Posted by gachan at 2011年10月14日 12:09
企業年金が、大きな傘の下から出ることを妨げていて、人材の流動化の妨げになっているかに思います。厚生年金の先行きが怪しいのでは、尚更、最後まで企業年金資格の獲得と満額の付与を手放すわけにはいかない。羨ましい限りです。
終身雇用解体などと時勢に巻き込まれると、悲惨な老後しか待っていてくれなそうな社会では、答えを見つけるのは難しいと思います。
Posted by 南海のクリオネ at 2011年10月14日 12:38
こんにちは。一つお話したい事があり、コメントさせていただきました。
私は10年、派遣会社で営業をしております。
派遣や契約社員は正社員と同じ仕事で、低賃金というご意見は違和感を感じました。
多くの企業、多くの派遣スタッフと接していますが、正社員と同じ仕事をしている派遣スタッフはおりません。それは大手になればなるほど、明確です。
派遣スタッフに優秀な方が多いこと、正社員だから優秀だという訳ではない事は理解して
おりますが、個人のパーソナリティの問題で
す。今までは社員が行なっていた仕事が派遣スタッフに移った事により、社員に対して求められる能力が上がっていると感じます。
Posted by 勝又 at 2011年10月14日 12:54
 今年、還暦を迎えました。20代末に、新しい事業の立ち上げに飛び込みました。理想があるうちは、企業も生きていますが、やがて、組織も出来上がり「人材の目利きをする役目」の人が「裸の王様」になっていった時に、仕事は会社の組織であれば、個人には、選択権はありません。人材は宝とは良く言いますが、宝の持ち腐れになり、倉庫になるのでしょう。日本的な職人精神で共鳴し、進んできた時代が、荒廃した戦後の復興期を支えたと思いますが、理想を持てるかどうかと思います。
Posted by 1951年生まれ at 2011年10月14日 15:52
おっしゃられる通りだと思います。特に最後のくだりにある”化学反応”を恐れてはいけませんね。ただ組織に依存する意識はこれからの時代、捨てるべきだと思います。自分には何ができるのか?を真剣に考え、自分を見つめ続け、その結果見つけた目標の達成のための手段の一つに組織が存在する。組織にマッチした経営戦略をつくるのではなく、経営戦略達成のための組織をつくる、これは昔から鉄則だと思います。多様な生き方があり、仕事はその一部です。現状に悲観するのではなく、まず一人ひとりが意識して、出来ることをする、一人の力はやがて大きな力になると信じて!
Posted by 長元耕司 at 2011年10月14日 17:06
いつも教えられることの多い文章を有難うございます。
私も若いころ博士が1000人以上いる大手メーカーで働いておりました。そのころからすでに人材の倉庫となっていたように思います。現在は、一般社団法人実践コーポレートガバナンス研究会で日本企業のコーポレートガバナンスの問題を論じていますが、宋さんの論点は日本のコーポレートガバナンスがうまく機能しない原因でもあります。詳しくは上記ホームページから入れるブログに文章を引用させていただきながら書きましたので是非ご覧下さい。
Posted by 安田正敏 at 2011年10月14日 17:32
宋さん指摘の通り日本は人の使い方が下手だと思う。ただコメントの中で言われている契約社員の給料が正社員に比較極端に低いと言う事は疑問だ。派遣社員なら分かるが契約社員が低いとすると、契約社員を探す時何をやってもらう社員を探すのか、社員の方はどんな仕事をやらしてくれるのかハッキリ確認していないと言う事だ。自分がやる仕事を正しく認識して見合う報酬を要求すれば特に安くならないのでは。
Posted by マスヤジ at 2011年10月14日 22:16
人材の流動性を高める。それ自体は、良いことだと思います。

ただ、この数年、中国で働いてみて気づいたことがあります。

それは、人材が絶え間なく流動することが、万全に素晴らしいわけではないということです。

まずは、会社にとって、会社のやり方をわかっている社員が辞めてしまうのは、とても厳しいことです。

特に中小企業は、専門性が高い上に複数の職務を兼務しるなど、ざらです。

そんな人材が流出すれば、会社にとってマイナスなのは、あきらかです。面白いのは、辞めた本人に
とってもプラスななっていないということです。

なぜなら専門性が高いわりに複数の職務をこなしてもらわないといけないので、器用貧乏になりがちだからです。

しっかり、能力をつけてから、転職を考えてほしいな。と常々思っています。

残念ながら、今の中国が技術大国なることはないでしょうね。マァ、そこを目指している訳でもないのでしょうが。

私は、閉鎖的な会社は、徐々になくなると思いますが、だからといって、社員の半数が毎年変わって行くような会社が、そんなに成功できるとも思えません。

コラムは、とても面白かったです。仕事の方、頑張って下さい!


Posted by トマト at 2011年10月14日 23:13
その昔、enジャパンだったかのキャッチ・コピーに、
「転職は慎重に」
というのがありましたね。もちろんこれは、人材の流動を歓迎する立場たる人材会社のコピーだからこそ受けるものでした。
同じ人材会社を営む者として、元より人材の活性化は大歓迎で、国レベル、世界レベルで人材の活性化・最適化が図れればどんなに素晴らしいかと思いつつ、日々仕事をしておりますが、但し、例えば昨今の中国の労働事情のごとくジョブホッピングが常態化してしまい、あちらの会社が少しだけ給料が高いという情報が入ると即座に転職していては、企業も社会も荒れるだけですし、ひいては国力にも影響が及びます。
大事なことは、「正しく」転職することと、そのための環境作りでしょう。
優秀な組織は優秀な人材を離さないでしょうし、その反対もまた真のはずですから、だからこそ企業も従業員も必死に頑張るんだ。そういう双方の緊張した関係が眼に見える状態にすることこそが上述した正しい転職のための「環境作り」であり、我々人材会社の役割と感じております。
ともかく、転職は慎重に見極めましょうね。
Posted by Liyuan at 2011年10月15日 00:01
育児休暇を取れたり、保育所に入ることができるのは正社員の特権です。派遣やパート、フリーランスでは認められず、自営業でも厳しいようです。
企業内だけでなく、日本社会においても、子供がほしければ、家族を作ろうと思えば、正社員であることが前提になっているのではないでしょうか。

もっと自由な生き方があってもいいと思いますが、守るべき家族のある立場になれば、仕方がないとあきらめざるおえないように思います。

働き方に関係なく、男女ともに育児に時間が取れ、幼保一体で仕事に関係なく安心して子供を預けることができる基盤ができてこそ、自由な選択ができ、その人々らしく、能力を生かしたことができるのではないかと考えます。
Posted by Taekon at 2011年10月15日 13:07
まずは、この大手ゲームメーカーが社員を全て解雇して市場に人材を供給して、人材の流動化を推し進めてほしいものです。
Posted by KKMM at 2011年10月16日 13:10
「椅子取りゲーム」の話、響きました。
私事ですが、うちの職場では中途採用と新卒の差別はありません。今の主任は中途採用ですが、見込んで主任になってもらいました。その後、何年も経ちましたが、中間管理職として実に良く働いてくれています。逆に、仕事のできない人もいましたが、それに応じた待遇になりますので、その人は去っていきました。
社員の評価と待遇をどうするかも、管理者の仕事なんですよね。
Posted by 松永茂樹 at 2011年10月17日 10:16
夏野さんのメルマガとともに考えますと、
ジョブズの素晴らしさが理解出来ない日本企業経営者が多い事が、日本の1番の問題なのだと思います。

ジョブズはアメリカの起業家であって日本とは違う、
そんな勝手な区別をつける人が、経営者から1サラリーマンまで多いのが今の日本。

考え方を変えるだけで世界は変わることを、もっと日本人は学ぶべきだと思います。
Posted by タクヤ at 2011年10月17日 20:34

宗さん、今晩は〜♪

人材の宝庫になるか倉庫になるかは企業にとって大きな差になりますよね。 トップや人事の手腕にかかっているのでしょうか?

化学反応の表現は素晴らしいです。私事ですが昔輸出入の事務をやっていた時上司が海外出張で課長の指令で責任のある仕事を代行で任され自分でも驚く程の力を出せました。 高等な仕事は自分には無理と思ってたのが課長との出会いが化学反応したのですよね。

やはり部下を試してみる事も社内では必要かもしれません。

宗さんの問題提議が新鮮で記事を読むのが本当に楽しいです♪

お体を大事に頑張って下さい。
Posted by まりこ at 2011年10月23日 21:32
活用する側があるとするなら、公共性が大切。
流動性に囚われると欧米のようになりますよ。
つまり、育てずに盗み出す。両親が消えます。
Posted by 惰眠 at 2011年10月25日 23:14
たしかに今はハイスペックな高付加価値・低賃金非正規労働者は世界中にあふれていますね。事情はぞれぞれでしょうけど。そこいらのおっさん正社員よりパフォーマンスがいいやつが多くいたりするのは笑えます(笑)。しかしもちろん低付加価値で低賃金の簡単な仕事ってのももちろん多くあるので、区別して考えなくてはならないと思いますが。
Posted by みかん at 2011年10月27日 13:48
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