自分と自国をも疑う心

中国の富裕層の多くは海外にも住居と居住権を持っているのです。「なぜだろうね」と家内にいうと家内が迷わずに答えてくれました。「自国がよくないと思うからでしょう」。

「なるほど」と思いました。第三者(彼女は日本人)の立場からみればそれは簡単過ぎる理屈です。自国のほうがいいと思うならばわざと海外に資産や居住権を分散する必要がないのです。彼らが裕福で不満のない生活を中国で過ごしても自国のカントリーリスクを感じているのです。

しかし、日本では「カントリーリスク」という言葉は中国やロシア、アフリカなどの国に使うものであり、間違っても日本自身に使うことはありません。中国のカントリーリスクを研究しても、米国のカントリーリスクを研究しないし、ましてや日本のカントリーリスクなんてありえないことです。

しかし、今だから言えますが、中国人のビジネスマンの中では、もう10年前から日本のカントリーリスクを熱心に議論していました。それは衰退のリスクでした。くれぐれも誤解のないようにお願いしますが、それは決して右翼的な感情論や希望論ではなく、日本に投資すべきかどうかの真剣勝負でした。

日本人は数十年前から中国の政治不安を「心配」してきましたが、中国は未だに安定しています。逆に、日本の政治は未だにリーダーシップが確立できず、総理大臣の名前が覚えられないほど政権が変わります。「政治不安」がもし政治の不安定を意味するならば、結果的にどちらの政治不安が高いだろうか。

それでも中国のカントリーリスクについて日本人とまったく同じように心配している中国人達がいます。それはグローバル志向の中国人群である華僑達です。彼らは昔も今も中国の政治不安をリスクとして捉えています。

しかし、その彼らが最も中国のビジネスに熱心であり、利益を上げています。彼らはリスクを商売しない理由にするのではなく、商売が大打撃を受けないようにリスクの分散措置をとった上、落ち着いて商売するのです。彼らのリスクヘッジは個人を守り、中国の不安に安定の要素を与えています。

中国経済が既に華僑を通じて世界と深く繋がり、不安定な政策をとった場合、一瞬にして富も人材も海外に退避してしまい、政権が成り立たなくなることに中国政府がプレッシャーを感じることも、結果的に社会の安定に繋がるのです。

外国のカントリーリスクばかりが気になるのではなく、自国のカントリーリスクにも着目すれば日本はもっと良くなると思います。「日本は危ない」とメディアで言う人がいますが、どこの何が危ないかはまったくいい加減で、憂国の安売りキャンペーンに過ぎません。本当に危ないと思うならば予防策・対抗策をとるのが人間ではありませんか。

リスク管理は決してテクニックではありません。心の管理です。疑う心、不信の心がリスクへの最強な予防接種です。大地震が日本国のもう一つのカントリーリスクを明らかにしました。それは津波と技術妄信でした。しかし、これらのリスクを抑えるものがあります。それは自分と自国をも疑う心です。

P.S.
ソフトブレーンの経営から手を引いてから5年も経ちました。この間、やっと中国人の経営者やビジネスマンと付き合うようになりました。彼らの多くは海外と中国の両方をよく知る華僑です。いわゆる大昔からグローバル化を目指していた中国人群です。

私は基本的に民族や文化の違いをあまり強調しないタイプです。経営コンサルティングを通じて民族や文化の違いを不当に保守派の保身に利用されていることをよく知っているからです。

しかし、華僑達は明らかに何かの共通点を持っています。それは自分にも大変共感共鳴する部分です。中国国内で会うさまざまな不愉快な中国人もいますが、華僑達は実に愉快でオープンでしかも誠実な人が多いのです。

彼らとの交流と自分の経験に基づいて「華僑流おカネと人生の管理術」にまとめて見ました。はじめての華僑に関する著作ですが、久しぶりに力を入れた本です。

体一貫で家族と世界中に散る華僑。人災と天災に当然のように遭う。彼らはどのように自分を律し、子孫を教え、リスクを管理し、困難に立ち向かうだろうか。ご興味がある方はどうぞ。
http://www.amazon.co.jp/dp/4023309354
その華僑友人の一人の言葉を載せておきます。
「多くの場合、チャンスは困難の仮面を被って現れる」


この記事へのコメント
いつも大変興味深く拝読しております。私も企業でリスク管理の担当者をやっているのですが、例えば今回のように「自国をよくないと思う」「自国を疑う」と言うとどうしてもイコール「信用しない」→「愛国心が無い」と言葉のはしばしを捉えて非難する傾向があります。「この提案にはこのようなリスクがあります。」と言うと、それが提案者個人を糾弾してるかのように取られかねないので、日本語の言い回しと言うのは本当に難しいなぁと感じております。一方で日本のマスコミのように、根拠無く不用意に危機感を煽る連中もいますし、また、中国と日本、どちらがリスクがあるかなどと張り合うことで鬱憤を晴らそうとする輩もいます。どちらも不毛な議論です。必要なことは、あらゆる可能性を考えた上で、いざと言う時に思考停止に陥らないように自身の判断基準を持つこと、その心のありようの大切さを今、説われているものと思っています。
今回の震災を機に多くの会社、組織でリスク管理が問われております。日本人一人ひとりの心のリスク管理もまた、見直さなければならないんでしょうね。
貴重な意見ありがとうございました。
Posted by kushikou at 2011年05月27日 08:32
いつもそうなのですが、今回は特にその視点に心地よく虚をつかれました。
Posted by 高橋 敏浩 at 2011年05月27日 08:40
20年ほど昔に香港に住む華僑の方に言われたことが今も心に残っております。日本は世界で一番、コントロールされた共産国家であると。今は多少良いか悪いかは判断出来ないが変ってきているとは、思われるが、自国の長を国民が選べず、主張の自由はあるが、何も変えられない、多くの国民が中流意識を持っている。自国のリスクの話しを読ませて頂いて、こんな事を思い出しました
Posted by 谷 at 2011年05月27日 08:52
はじめまして。

以前より、メルマガを楽しみにしています。
今日の主題は、個人的な体験ともぴったり重なりましたので、思わずコメントしたくなりました。

お人好しで、端から見ると、どう見ても損な役回りを昔から引き受けてしまう僕だったのですが、その経験がずっと後になって役立つ体験が実に多いのです。

華僑の方々の気質も、大変納得が出来ます。仕事柄、中国人の留学生の先生方にも似た香りを感じました。

昔から、個人的に”中国文化”の奥深さを大変尊敬しています。

今後もよろしくご教示のほどお願い申し上げます。
Posted by 地方勤務医 at 2011年05月27日 09:09
素敵な問題提起ですね。
僕の年代では、知っている限り亡くなった父親・親戚・先輩から、後輩・息子までも含めて、母国を相対化する習慣は外交官の子女か、帰国子女しかないような気がします。

宋さんの今回の問題提起はとてもレベルの高いものです。

国家のガバナンスを個人なりに評価し、国を選び生き抜くというDNAは、たぶん残念ながら、中国人(華僑)、ユダヤ人、アラブ人、インド人、東欧の人々、アフリカ全域の人々などかなり限られた人々です。

好むと好まざるを得ず、大多数の日本人は、この狭い「日本列島」内のコップの嵐の中で生きざるを得ないという「刷り込み」がなされてきたのです。

その意味では、宋さんや、華僑や、華僑の子孫の僕の友人たちをうらやましく思うところはあります。

ただ、地域研究を継続していて、「地域と共に生きる」それも僕には尊敬に値する生き方だということもわかってきた今日この頃です。
Posted by 沼田一博 at 2011年05月27日 21:28
素敵な問題提起ですね。
僕の年代では、知っている限り亡くなった父親・親戚・先輩から、後輩・息子までも含めて、母国を相対化する習慣は外交官の子女か、帰国子女しかないような気がします。

宋さんの今回の問題提起はとてもレベルの高いものです。

国家のガバナンスを個人なりに評価し、国を選び生き抜くというDNAは、たぶん残念ながら、中国人(華僑)、ユダヤ人、アラブ人、インド人、東欧の人々、アフリカ全域の人々などかなり限られた人々です。

好むと好まざるを得ず、大多数の日本人は、この狭い「日本列島」内のコップの嵐の中で生きざるを得ないという「刷り込み」がなされてきたのです。

その意味では、宋さんや、華僑や、華僑の子孫の僕の友人たちをうらやましく思うところはあります。

ただ、地域研究を継続していて、「地域と共に生きる」それも僕には尊敬に値する生き方だということもわかってきた今日この頃です。
Posted by 沼田一博 at 2011年05月27日 21:30
渡米して20年、華僑・USにおけるユダヤ人の
共通項を感じてきました。
金銭感覚・教育熱・ダイナミックなリスクヘッジ、そして食への関心、跨国感覚の
共通性を今回ズバッと書かれていたので
我が意を得たり、思わず膝を打ちました。
それにしても日系一世二世と地べたに這い蹲って頑張ってきたDNAを今の日本人は持ち合わせているでしょうか?震災よりも多くの人が毎年自殺しています。こちら移民国ヒスパニックの方々も皆地に這い蹲って生活しています。ちょっと視線を外に向けるだけで日本も随分生き易くなると思います。

Posted by 金谷紀代子 at 2011年05月27日 23:52

宗さん、今日は〜♪
華僑の方達によって中国リスクを抑えてるというのは中国にとっては幸せなことですね。

日本のリスクは国民は何年前から薄々気付いてると思うんですよ。例えば税金の恩恵を享受してる人口が税収に対して大きすぎるのではないかという問題です。 国民は解決すべく民主党を選んだりしましたが結果的には無力だったようです。 韓国は官民一体となって大きなプロジェクトの際には国の為に貢献する宣誓を全員で斉唱するのを先日テレビで見ました。 現実日本を凌駕する勢いで世界を席巻しはじめていますよね。 貧乏になり始めている日本でいまだに税金の交付を受けているぷらさがり法人がかなりの数がある事態を私は絶望的に憂慮しています。

我が家の子供達は悪い方向にいく日本に夢を抱いてないない様子です。

貧乏な私が未来の日本の子供達に何が出来るのか悩む毎日です。
Posted by まりこ at 2011年05月29日 11:48
日本人は残念ながら内弁慶民族なのです。
ひきこもり民族なのです。
家の中(国内)で学校(国外)のいじめっ子(アメリカや中国)の悪口は言えたり、母親(管総理や政府)に強気になったりするのがせいぜいの民族なのです

衰退期なのは中東の独裁国と似ていますが、若者に生気はなく革命は起きません
Posted by 都条例と石原に真っ向勝負! at 2011年05月29日 22:36
宋さん 全く同感です。清水
Posted by 清水 昭 at 2011年05月30日 16:19
「華僑流おカネと人生の管理術」拝読しました。

この記事の内容とも連動していますが、リスクマネジメント、特に家族の国籍を分散させる知恵などは興味深かったです。
日本人には考えもつかない手法ですから。

中国人も日本人と同様、当然いろんなタイプの人がいますが、結局「華僑」の人たちとは気が合うと感じています。
広い世界で生きていこうとする心意気が通じ合うからなのでしょう。
私も和僑を名乗りたいです(笑)

シンガポール人でもアメリカ人でも、英語で十分コミュニケーションが取れますが、中国系の人にカタコトの下手くそな中国語を交えて話しかけてみると、打ち解け具合が全然違う。(本当に下手な中国語なのに、ですよ!)

それは多分母語ではない言語を、生きていくために勉強してきた人たちならではの反応なのかもしれない。
この記事と本を読んで、ふとそう思いました。
Posted by Nozomi at 2011年06月01日 01:41
宋様の観点を賛成します。
特に、リスクの管理についてところです。ここを読んでいたとき、心が響きました。
Posted by 孫海葉 at 2011年06月03日 12:14
こんにちは、いつも楽しく拝読させて頂いております。そして、毎回、毎回非常に勉強になります。今回のテーマは非常に興味がありました。早速、本を買いに行きます、これから、日本で生活する私に役立ちそうです。
つぎのメルマガを楽しみしております。
余談ですが、昨日ハッケン伝の番組を見ましたが、初めて宋さんのお顔を拝見しましたが、ツイッターのプロフィール写真より“発福”したようですね^^
Posted by 王紅梅 at 2011年06月03日 15:00
宗さん通信、楽しみにしています。新刊も読ませていただきました。そーこで質問です。
人に迷惑をかけないように、と教育するのが日本。
人の役に立つにとになれ、と教育するのが米国。
人に負けないように、と教育する韓国。
という話を聞きました。華僑のあるいは中国の教えはどうですか?
Posted by 広瀬正 at 2011年06月06日 06:56
宗さん通信、楽しみにしています。新刊も読ませていただきました。そこで質問です。
人に迷惑をかけないように、と教育するのが日本。
人の役に立つにとになれ、と教育するのが米国。
人に負けないように、と教育する韓国。
という話を聞きました。華僑のあるいは中国の教えはどうですか?
Posted by 広瀬正 at 2011年06月06日 07:04
はじめまして
いつも楽しく拝見しています
今回の記事で、私が奥様の仰ったことを読んで感じたことは、宋さんが奥様の言葉から感じたこととはだいぶ違てしまっていました(ご本人がどいう意図で仰ったかというより話の受け取り側として)
「自国がよくないと思うからでしょう」、の「よくない」はカントリーリスクのことをおっしゃったのでしょうか?
私はリスクという言葉は少なくとも日本人にとっては故郷について語るとき、その概念が当てはまりにくいもので、「親や家族など愛する人と一緒にいる幸せなことと、これらの人間と共に暮らすリスク」などと人はあまり考えないのと似ていると思います
家族を愛するからこそ家庭内にある問題に対して危機意識を持つと言うことを宋さんは仰ったのだと思いますが、家族と一緒にいることで危機があったとしても愛する家族のそばいて共に暮らしたいと思う素朴な気持ちがリスクという概念によって邪魔されないのが故郷の日本で暮らす大半の日本人の気持ちと思います

宋さんの記事通り読むと、自分の故郷に対しリスクという観点で見る人が多いのは華僑の特徴ではないかと思いますが、日本人の場合はリスクを超えた目に見えにくい別のものを故郷での生活に求めている部分が大きいのではないかと思います

又それとは別に日本の企業も商売に関しては冷静に判断してリスクが大きいと思えば生産拠点は日本を出て行ってますので、自分が暮らし住む場所ではなく儲けだけの基準で見る必要がある場合にはリスクという観点で日本人も分けて考えていると思います

私は外国語は数ヶ国語できます
日本は原発問題や経済問題がある今、住むのに状況がよくないのかもしれませんので暮らそうと思えば他の国でも暮らせます
でも心にある望郷の気持ちと照らし合わせると他国とは比べようもなく、日本に住むのを一番に望みます

留学時に病に倒れた時、日本に帰りさえすれば病気がきれいさっぱり治るとさえ思った事もあります
それは妄想とわかっていますが、そう思える何かが故郷というものだと思います
愛する人にさえ会えば幸せになるのと思いこんでるのと同じです
多くの日本人の故郷という感覚にどこにリスクの概念が入る余地があるのでしょう
福島の人だって小さな子供の健康に責任がない人たちは自分の家に帰りたく仕方ない又はすでに帰っているのです
放射能でリスクが多すぎるのは本人たちが一番良く知ってます
でも華僑の人たちが考えるようなリスクとか関係ないのです
私は福島の人の気持ちが痛いほど良くわかります

もしリスクを考えて中国を出て行く優秀な人が少なければ、どんな権力者でも中国にいる限り毎日口にするリスクが高い多くの毒食品問題や毎日吸う中国の空気の汚染問題は少なくなるのではないでしょうか?

宋さんのお書きになることを褒め殺しする人ばかりだと不誠実なので正直に書きました
Posted by 沢 at 2011年07月05日 08:50
Now I know who the brainy one is, Iツ値l keep lkooing for your posts.
Posted by juuyMpmwuLEWMuwVvg at 2011年07月06日 01:05
もしリスクを考えて中国を出て行く優秀な人が少なければ、どんな権力者でも中国にいる限り毎日口にするリスクが高い多くの毒食品問題や毎日吸う中国の空気の汚染問題は少なくなるのではないでしょうか
Posted by Cheap Coach Handbags at 2011年07月12日 11:15
宋さんのお書きになることを褒め殺しする人ばかりだと不誠実なので正直に書きました
Posted by Cheap Coach Handbags at 2011年07月12日 11:17
今手に取っている本「現代の帝王学」(伊藤肇著)でリコー創始者市村清氏の言葉が紹介されていました。

“部下をかわいがって勢力を伸ばそうと考えるのは間違っている。部下に対して厳格であってこそ、むしろ、部下はついてくる。
部下の多くは、かえって上役の厳しい指導、監督をねがっている。えこひいきや抜擢で閥を作ろうとすればまず失敗する。”

こちらのくだりを読んだ時
「華僑流おカネと人生の管理術」で宋さんが家族経営を目指して失敗したと書いていらっしゃったことを思い出しました。

いつもニコニコいい人であっては、自分も他人もつぶしてしまう。
人に優しくすることばかりが良いことのように言われますが、厳しくすることだって本当に大切なことですね。
Posted by Nozomi at 2011年08月20日 22:20
>>民族や文化の違いを不当に保守派の保身に利用されている

日本人にはこういうタイプが本当に多いです。「お前は外国人だから日本のことが分かるわけない」とか「日本の国益を損ねる」とか言っている連中です。蓮舫議員の出自を引き合いに出すような平沼のような連中です。しかしこういう国士と称する連中が本当に国の役に立っている話は聞いたことがありません。街宣車で騒音まき散らす前に自衛隊にでも入ったらどうだと言いたくなります
Posted by 日撃公子 at 2012年02月28日 04:38
宋は、紙幣と永久立っ海軍を確立するための最初の中国の政治組織を発行する世界の歴史で初めて政府だった。
Posted by legal essays at 2013年08月24日 16:56
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