社員がトップを真似してはならない

アドバイスがほしいとのことで友人の会社の経営会議に呼ばれました。社内の横連絡が少なく、顧客に出すパンフレットも個人によって異なると知りました。営業資料、顧客情報から会議のチェックポイントなどの基本を共有するように進言しますと、経営幹部に反論されました。なんと「管理のない会社」を目指すからとの理由でした。

そういえば、友人はいわゆる世間でいうカリスマ経営者です。独特な考えと言葉で話すので私も昔から惚れていました。彼が繰り返し強調する経営の考え方の一つに確かに「管理のない会社」がありました。しかし、それには訳があります。

この会社は高度な顧客サービスが要求される会社なので、友人はきめの細かいサービスを現場主導で行なってほしいと常に願っています。経営者がいくら号令を発しても管理職がいくら命令しても社員の自主性がないとうまく行かないと考えています。

友人は「社員の自主性を大切にしたい、だから社員にいちいちあれこれと行動管理しない」との意味で「管理のない会社」だと言っているのですが、言葉だけが繰り返されているうちに現場では多くの誤解が生じています。

普通に考えても、「管理のない会社」は「マネージメントのない会社」を意味するので英語に訳すと本人も納得しないと思いますが、カリスマ経営者だから誰も疑問にせずその本当の意図を追求しません。「管理のない会社」という言葉だけが管理層に浸透していきました。

その結果、確かに会議もなくなり、本社もなくなりましたが、冒頭のシーンが示したように会社は多くの現場の集まりになりました。それぞれの現場は一生懸命頑張っていると思いたいのですが、うまくいっていなくても結果が出るまでトップには分かりません。確かにビジネスモデルとしては長いスパンのビジネスなのですぐ危険水域に達するようなことではありませんが、このままでは確実に問題が積もっていきます。

「その言葉は社長が言うならいいが、あなた方からは言うな。管理が本当に要らないなら管理職の君達がどうして要るの」。せっかく友人に頼まれたので私は自分の感情を隠さずその場で怒りました。

分かってもらうために私はさらに続けました。「社長が止めたい管理とは社員への監視のはず。顧客情報、営業資料、連携体制などは顧客価値に直結する。管理しなくて自然にできるはずない」、「Dという会社は皆さんご存知だと思うが、今は殆ど忘れられている存在だ。最盛期において社員の誰もが宗教のようにトップの言葉を繰り返していた。具体論がなかった」。

書類と会議が多く社員管理が多すぎると批判してきた私ですが、まさかその逆を言う場面があるとは自分もびっくりでした。しかし、考えてみれば本質は同じです。要はどんな立派なことを言っても現場の実態が全てなのです。いくら現場を強調しても現場がよくないならば、それはスローガンで終わってしまうことです。

他人の会社の経営会議でいきなり腹心の方に怒りまくった自分。翌朝はホテルでコーヒーを飲みながら反省していました。友人に電話でもしてお詫びしようかと思ったその時でした。彼から電話がかかってきました。「宋さん、俺は反省した。プロセス管理の仕組みを作りたい・・・」と。やっぱり惚れていただけのカリスマ経営者でした。
この記事へのコメント
宋文洲さんのおっしゃるとおりですね。私も以前、取締役として入社した中小企業で同じような体験をしました。「マニュアル」がきらいな社長は「プロセス管理」の意味がわかっていないようでした。私はその会社で内部体制の構築を行いましたが、現在では人をあまり増やさずに、売り上げも2倍近くになっています。いかに「プロセス管理」を定着させ、管理する立場のマネージャーの人材能力をアップさせるかのカギは、プロセス管理をきちんと構築して、正しい会議を行うかにかかっているかと確信しております。これができていない会社は、まだまだ多いのではないでしょうか。
Posted by 佐藤賢一 at 2010年06月11日 08:40
管理という日本語はともするといろいろな使われ方をします。私は敢えて「管理」という言葉を使わず、manageとconrolを使い分けています。manage to doという使われ方に触れたとき(30年ほど前米国にて)はじめてmanageの意味が解った気がしました。宋さんのお話で言うならば、managementは必須、個々人の行動は自発性・自主性を期待してcontrolしない。(liberalといってもいいのかなと思います)ということではないでしょうか。勿論管理職はmanagementがmissionでしょう。
Posted by 三中 茂 at 2010年06月11日 08:48
宋さんの文章だけからは、具体的に相手の会社の腹心がどう言ったのか、よくわかりませんから、正確にはコメントできませんが、今回は宋さんの意見に大賛成です。
必要な管理と不要な管理(監視)は分けて考えるべきだと思います。まして管理は不要だと、経営者以外の人が語るのはやはり、おかしな話です。 今回は納得した次第です。
Posted by 笑うオヒョウ at 2010年06月11日 08:55
先日某勉強会で成城石井の大久保社長の講演がありましたが、大久保氏は「全ては売場にある。本社の指示を売場がその地域の特性に合わせて具現化しなければその店の顧客は購入しない。SVやエリアマネージャーがそのサポートをする」という事も言われていました。宗さんの主張と根は同じと感じました。
次回講演を楽しみにしています。
Posted by 多奈部 純一 (byベーヤンと記載願い度) at 2010年06月11日 09:13
宋さん 思い切ったご発言をなさった結果、
会社の顧客活動を、みんなで高められるプロセス管理の真意を理解して頂いてよかったですね。
「お客様が、会社を管理して頂けるようにセットする。」これが私の願いでした。田丸
Posted by 田丸 孝 at 2010年06月11日 09:17
プロレス管理の極意は、人を管理するのではなく、仕事を管理することですよね。
そこがうまく理解されていないような気がします。
Posted by 管理人のゆい at 2010年06月11日 09:21
おはようございます。
宋さんのおっしゃるように、どんな立派なことを言っても現場の実態が全てです。現場の実態を無視した理念や仕組みは意味がありません。しかし、そのことに気がつく社員はなかなかいないものです。
話は少しそれるのですが、先日もある有名な評論家の方が講演で「私は全部当ててるんだ」とか「小泉改革には光と影と言われるが、私から言わせれば光なんてなかった」とか「マスコミは本当のことを言わないんだ」等熱く語っておられましたが、これもまた現場の実態を無視しておられるような気がします。とりあえず評論家の方に一言申し上げたいことは、予想を当てることそのものにはまったく意味がないということです。皮肉にも予想することによって周りが警戒をし、その結果その予想が外れるということが一番なのです。予想が当たって評価されるべきは今日から始まるワールドカップで優勝する国を当てることです。
ありがとうございました。
Posted by ごろんた at 2010年06月11日 09:21
プロレス管理ではなく、
プロセス管理でした(笑)

失礼しました。。。
Posted by 管理人のゆい at 2010年06月11日 09:23
いつもメルマガの「論長論短」を楽しみにしております。本日の宋さんのご指摘、すごく身が引き締まりました。言葉が独り歩きし、本質が見失われる。そんな、気づきをいただきました。きちんとパーセプションギャップ(perception gap)がないように、肝に銘じて言葉を発し、確認しています。

宋さんのメルマガ
これからも楽しみにしております。

ありがとうございました。
Posted by 中前一輝 at 2010年06月11日 09:24
会社のやり方って3とおりくらいあると思います。ひとつは、保険営業やフランチャイズのような一人一社で商材を提供する会社。二つ目はマクドナルドのようなプロセスは完璧に整っていて社員は歯車である会社。三つ目はそこそこの自主性とそこそこの歯車であることを要求する会社。この三つ目が一番多く、一番やっかいですね。
「管理しない」という言葉を都合よく受け取り、責任を放棄しているから宋さんはカチンと来たのだと思います。
管理形態すら日々、ビジネスにあわせて変化してくれればいいのですが、なかなかそこまで柔軟であることはむつかしい。じゃぁ、「最低限の管理」というものを企業によって決めるということになるかと思います。
いや、このあたりの話しは実にバリエーションが多いので盛り上がりそうです。
Posted by たかお at 2010年06月11日 10:20
250人以上の営業のいる会社に在籍していますが、弊社には日報も顧客管理(受注履歴と誰でも分かる会社情報程度はありますが)もない、マネジャーもメンバーも感覚と経験だけ業務を遂行している、まさにもったいない会社です。
そこにCRMを提案していますが、文化がないだけに「営業の負担になる」とか「プロセス入力が続けられるのか」、導入メリットを伝えても「理想論だ」となかなか遅々として進みません。
今回のメルマガを読んで、『管理』という言葉をうまく使い分け、改めて提案していこうと思いました。
Posted by SIN at 2010年06月11日 10:55
「事実は小説より奇なり」と言いますが、この会社はまさにその典型ですね。
どういう事業をおこなっている会社なのか、さっぱり見当がつきませんが、よく今まで存続できたなと思います。

しかし、今回の宋さんのお話を伺って、ふたつのことを思い出しました。

ひとつは、故本田宗一郎氏が役員会議に出なかったことです。
その理由を、故城山三郎氏から聞かれた本田さんは、自分が出席したら、ほかの役員は自分の意見に従うばかりになってしまい、やがてはワンマン経営になり、組織が硬直化して、会社の存続も危うくする恐れがあるからだという趣旨のことを述べていました。

もうひとつは、かつて存在したある家電量販店のことです。
その会社は、カリスマ性の強いトップに率いられていたのですが、個々の店舗への商品供給に難がありました。
そこで、物流センターを造ることになったのですが、建設途中に視察に来たトップが、何を勘違いしたか、「良い店ができそうだね」という意味をことを言ってしまったのです。
それで、設計を途中で変更して、その建物は普通の店になってしまったそうです。
要するに、誰もトップの勘違いを正せないし、正さなかったのです。
結局、その会社は破綻しました。

以上のふたつの出来事と宋さんの友人の会社に通底することは、経営トップが誤った際に、それを正せないととんでもないことになるということです。
トップがそのことを自覚して、自律できれば良いですが、それができなかったら誰かが逆名利君をおこなうしかありません。

月並みな言い方ですが、実に難しい奥の深い問題だと思います。
Posted by 砂押 英文 at 2010年06月11日 20:20
自分が勤める会社のことかと思いました。
日報(月報)は交通費精算のため。失注した人を責めても無意味だからと進行中の案件管理もしません。誰も責めるために案件管理をするつもりはないと思うのですが。営業からの連絡がないという取引先からの電話を何度受けたことでしょう。そういわれても「本人に連絡をとります」としかいえないときは情けなくなります。それでも、それを彼ら(営業)にいう事は彼らにとって余計なプレッシャーになるだけで、メリットはなにもないとさえ言います。
上がそういうのをいいことに、営業連はなんでも人のせい、景気のせいにするばかり。
そのくせ、「データ分析」を私に求めます。日々のデータ入力、蓄積を営業負担が増すからととめているのに…どこからデータは出てくるのでしょう。たまに自分はドラえもんかなにかと思われているのかと思うことがあります。
それでもそれなりの利益が出ているのです。今後はさておき 世の中はよくわかりませんね。
Posted by ma at 2010年06月11日 21:02
社員がトップの真似をしてはいけない。これは、本質を理解せず、勝手な解釈をして正当化してはいけない ということでしょう。

管理職がトップの言葉を真似して、もっともらしい否定をした時、部下は、それに納得できなければ、『なんでですか?違うんじゃないですか?』と言えなければいけない。そして、上司はそれに丁寧に応え、最終的には部下と上司とが納得し合わないといけない。

プロセス主義も同様で、何故このようなプロセスを踏んだのか?どこが良くて、どこが反省すべきか?を、深く追及し議論し、合意しなければいけない。
両方とも、"上司が命令し、部下が従う"時とは違い、"一見すると無駄な"工数が途方もなくかかる

それを覚悟した上で、実行しなければいけないのが、難しいところです。
Posted by pasimo at 2010年06月12日 00:29
自分は「現場」にいる人間です。最近、うちの会社では、「しごと改革推進室」なる部署が設置されたり「現場力」なる言葉がにわかに強調されています。でも、結局は「現場」を分かっていない組織の内向きの人たちが勝手にやっているようにしか見えません。単なるお題目です。
「現場が大事」と言いながら、結局は「現場の人間は上の指示がなければ動けない」と見られるのがオチです。
現場で全うに仕事をしている人は、そんなことはありませんが・・・。
Posted by ナイス橋本・龍太郎 at 2010年06月12日 10:04
いつも、ドキドキしながら読みます。どんな視点や視界をお持ちなのか、宗さんという方がみつける偶然が、必然のように感じる瞬間が味わえる素敵な文章ですし、体(てい)を感じます。
いっきに読んだ最終部分、気になりまして、その勢いで、コメントさせてください。

惚れていただけの経営者さん

の部分は、

惚れていただけのことはある経営者さん
惚れていた通りの経営者さん
惚れていただけの契機を捉える経営者さん

という意味でとりました。
さらに続く、二段階の落ちではないですよね。毎回の宋さんのお言葉、僕には影響力が大きいのです。まるでトラックバックコメントでなく、質問になってしましました。
Posted by 川上達也 at 2010年06月12日 12:26
「社長が本来大事にしている事が、幹部にもなかなか伝わらない」本当に多くの会社で起きていると思います。時に経営者が偉大であればなおさらだと思います。
でも今回の経営者の方は、それを素直に自覚できていることがすばらしいと思いました。
Posted by 田畑恵志 at 2010年06月12日 13:42
本当にその通りです。
管理の話も管理職の話も、その通りだと思います。
そしてうちの会社は、社長がGOをかけて、みんな真似して、管理業務が多いタイプ。社内文書作りの方が明らかにお客様向けの時間より多い。

うちの会社ではこうです。
社長「火事だ」
役員「火事だ」
管理職「火事だ」
社員「火事だ」
結局、何も進みません。困っています。
Posted by 加藤憲一 at 2010年06月13日 13:47
いつもお世話になっております。

今回の論長論短も大変参考になっております。誠にありがとうございます!

これからもよろしくお願いいたします。
Posted by 和佐中平 at 2010年06月13日 15:43
初めまして。
やっぱり変だよ日本の営業を毎日繰り返し読ませていただいてます。
私は会社員ではなく、1会社のパートの者です。場違いでしたらすみません。

私は当然会社を動かせる立場の者ではなく、年若で社会経験も少なく地位もないため、宋さんの文章を活用する場面はなく、私にとっては、慰めであり、明日会社に行くための糧。いつも勇気をもらっています。

うちの経営陣や管理職に読んでほしいものです。

お客様の満足より、会社都合。号令と何に繋がるのかわからない無意味な叱責。本人に任せるという大義名分で放置。フォローではなく叱責。

教育はなくマネジメントもないので、情報は一部の人しか持っていないので、質の悪い対応をしていると思います。

客様の声を代弁しても何年も変わらない、毎年同じ時期に同じクレームの対応に追われ、提案をしたらひとりの責任にして仕事量の多さから当然対処できずにまた同じクレームを繰り返している…ようにしか私には見えません。

お題目のように粗利粗利と怒号が飛びます。

ここで交わされる議論が高度で、前向きで、まっとうで羨ましいです。

いつかそういう話題を話せる日がきたら、明日の仕事がこんなに苦痛にはならないのに。

宋さんの文章は首を縦にふってそうだと共感でき、心強い味方がついているようで嬉しいです。

また楽しみにしています。
Posted by こま at 2010年06月13日 23:54
宋さん

最高ですね 宋さんもそのカリスマ経営者の方も・・・感動しました。
Posted by やましろ at 2010年06月14日 08:53
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