トヨタ自動車がはまった本当の罠

宋 文洲

トヨタの社長が米国に行かないニュースをみた時、私は思わず「営業が下手だな」とつぶやいてしまいました。トヨタ自動車への愛情を込めてその悔しい思いをツイッター(http://twitter.com/sohbunshu)でもつぶやきました。結局米国議会の要請で行かざるを得なくなりましたが、困難の旅を多難の旅にしたのは豊田社長ご本人でした。

ご存知の方も多いと思いますが、5年前、トヨタ自動車の張富士夫社長(元)が「やっぱり変だよ日本の営業」を賞賛し、営業系役員に配りました。思えばあの頃のトヨタ自動車は最も輝いていました。トップの張社長は米国事業を育てた張本人であり、トヨタの問題点は製造よりも営業だと看破していました。

「やっぱり変だよ日本の営業」の最も重要な論点の一つは「営業とは売ることではなく知ること」でした。これは「カンバン方式」の本質でもあります。同じことはなぜ営業の分野にできないかと当時の経営陣が素直に問いかけていました。

「良いものを作る」という一方的な願望を捨てて市場の必要台数に合わせて物を作るのです。この台数を知る作業は「カンバン方式」の核心でした。この原則を守れば昨年のような損害もありませんでした。

米国のリコール問題で問われたのはトヨタ車の品質ではなく、企業としてのマーケットへの対応力、つまり営業力なのです。一番大切な顧客から重大なクレームが来た時に社長が即時に部下を連れて訪問するのは当然でしょう。こんな日本でも当たり前の経営センスは議論する余地があるでしょうか。

一部の方はなぜ周囲が進言しないかといいますが、こんなことでも進言に頼るならばトップが進言を理解できない可能性が高いと思います。

トヨタ自動車の品質は今でもトップレベルであることに疑いの余地がありません。リコールはよくある話ですので今回の問題のきっかけに過ぎないのです。問題の本質は対応であり営業力なのです。米国の厳しい世論を「やきもち」や「保護主義」と考える人も居るようですが、トヨタを支えてきた米国のお客様に失礼だと思います。

張富士夫元社長が賞賛してくださった「やっぱり変だよ日本の営業」のもう一つの重要なポイントはよいものを作れば自然に売れるという神話への批判です。企業がこの神話の罠にはまると無機質の物に囚われてしまい、人間としての顧客の心情に鈍感になっていくのです。

少し前になりますが、トヨタ自動車が中国で打った広告が問題になりました。中国の重要な象徴物である獅子がトヨタ車に頭を下げ、「敬意を表さざるを得ない」と台詞をいう表現方法でした。結局、中国の世論の反発を受けて止めたのですが、営業力の弱さが露呈したのです。

私は当時から「トヨタが傲慢だ」という中国世論に同意しませんでした。トヨタ自動車は傲慢ではなく、「傲慢に見えること」を知らない組織になってしまったのです。

トヨタがはまった本当の罠は品質の低下ではなく、顧客を知る力−営業力の低下なのです。
この記事へのコメント
初めまして。
ツイッターでお見かけしました。

品質の低下ではなく、顧客を知る力。
一見、当たり前のように見えることが
できなくなるのはなぜなのでしょうか。
自分の小さな世界に置き換えても、
非常に参考になります。

厳しいビジネス世界を生きぬいて
いらっしゃる宗さんですが、
そのお言葉には人としての暖かい
品の良さを感じます。
ブログもつぶやきも楽しみにしております。
Posted by 桃子 at 2010年02月22日 19:07
メルマガずっと楽しみに読んでいます。最近はツイッターでも拝見してます!

5段落の最後の方「こんな日本でもあたりの経営センス」は「あたりまえの」でしょうか?
Posted by 尾形 真 at 2010年02月22日 21:27
まあ、これくらいなら「懲らしめられる」こともないでしょう。
//
Posted by ルート134 at 2010年02月24日 18:51
実は、トヨタの件ですが、当社のダンプを購入して、(何年も前の話ですが)運転中に信号待ちの時に、急加速が何回もあり、トヨタの本社に電話したり、地方の販売店に苦情を何回も言ってやっとダンプを修理して貰った事があります。こんな時にこんな話はしたくはないのですが、かなり話が見えないと感じました。何週間もダンプを修理し明確な回答はまったく有りませんでした。多分、顧客カードにうるさい客と書いたと、思います。(その時は、死亡事故が起きると私は伝えました。)この問題は、販売店がトヨタ本社にかなり遠慮して車のクレームを上げていないと思いました。私も日本の車は売れて欲しいと思っています。だから、うそを言わないで欲しいと、思います。
Posted by 悦子 at 2010年02月24日 21:35
メルマガ→ツイッター→こちらへ伺いました。

今回のトヨタの件、どうしてこんなにこじれたのだろう?と私なりに考えていたのですが、こういう面があったことは想像もしていませんでした。

宋さんの著書やメルマガはいつも、違う視点を気づかせて頂けるので、感謝しております。

ツイートも楽しみにしております。
Posted by 三田 ゆき at 2010年02月25日 11:54
ある地方の工務店では、クレーム発生時には最優先で社長がお詫びに駆け付けるということをして、口コミで顧客がが増えているそうです。
現地の販売店も、きっとそうしたと思いますが、あれだけ大事になっても日本から行くのをちゅうちょした判断は、私も会社やっているので気持ちはわかりますが、誤りですね〜。
すぐに行けば、きっともう少し違ってたのでしょう。
私も他人事と片付けずに、他山の石として心にとめておくことにします。
Posted by 田上 恭由 at 2010年02月28日 12:41
トヨタの社内で、問題の進言が当たり前という風土になっていないのでしょう(特に、上層部に対しては)。社員は会社から給料をもらっており、上司の裁量で払われているを思っているからでしょう。もし、給料は顧客から、会社を経由して払われていると本当に思っていれば、こんな対応になっていないと思います。クレームや失敗は誰にでもある。それへの対応で、その人や会社の強さや品格が明らかになるのでしょう。
Posted by 山本 能丸 at 2010年02月28日 23:23
トヨタ自動車がはまった本当の罠: 宋文洲のメルマガの読者広場
Posted by 2 Day Diet Pills at 2013年08月13日 12:10
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