アリババの創業者が引退するが

9月10日は中国の「教師の日」です。偶然にもこの日はアリババ創業者馬雲氏の誕生日です。先日、54歳の誕生日に、馬雲氏はアリババ広報を通じて引退宣言を発表しました。「満55歳の来年の今日に会社を引退する」と。

しかし、当の馬雲氏は9月10日にロシアで54歳の誕生日を迎えました。ロシアで開催される東方経済フォーラムに出席するためです。このフォーラムに日本の安倍総理も出席しプーチン大統領と会談を行いました。

翌日の11日、プーチン大統領がロシア菓子を食べていた馬雲氏を見つけて聞きました。「馬雲さん、あなたはまだ若いのになぜ引退するのですか?」

馬雲氏は答えました。「大統領、私はもう若くないのです。昨日ロシアで54歳の誕生日を過ごしました。創業から19年間は確かにある程度仕事をしましたが、私には他にも大好きな仕事がたくさんあります。例えば教育事業と公益事業などです。」

「あなたは私より若い。私はもう66歳ですよ。」プーチン大統領は笑いながら拍手しました。

馬雲氏が来年の誕生日にCEOを引退する時、アリババはちょうど20周年を迎えます。たった19年間で杭州師範大学を卒業した英語教師の馬雲氏は時価総額4560億ドル(46兆円)の中国一位、世界七位の会社を作り上げました。

馬雲氏の引退声明では「この決定は10年前から慎重に考えそして準備してきた。私は受けた教育のお陰で教師になった。今日に至って私は本当に幸運だった・・・私にはまだ多くの夢がある。教育に戻って好きなことをすることによって私は興奮と幸福に満ちるだろう。私はまだ若い、他にも試したいことがある。」

この引退声明に合わせてプーチン大統領との会話を吟味すれば馬雲氏は経営がそれほど好きではないことが分かります。時代が彼をカリスマ経営者の座に押し上げたが、彼の内心は幸福ではなかったはずです。天職の教育事業や好きな公益事業など、好きなことをやりたい気持ちは本物でしょう。

スケールはまったく比較になりませんが、私も経営が好きではありませんでした。偶然に始めたビジネスが時代の流れに乗って拡大していきましたが、「いつまでもこんなことをやりたくない」と自分の心が定期的に言っていました。我慢していればそのうち好きになると思っていましたが、時間が経つに連れて好きになるどころか、引退したい気持ちがどんどん強くなっていきました。

私は馬雲氏の引退は中国の企業家たちにとてもよい刺激を与えたと思います。経済は誰か個人のお陰で発展するものではありません。より多くの普通の若者が普通のように起業してこそ社会が豊かになれます。いつまでも経営トップに居座り、精神と感覚が時代に遅れても権力を握りしめる経営者が増えれば、経済は活力を失い、社会全体も後ろ向きになるのです。

また経営を引退してから思ったのですが、教育こそ未来社会への最善の投資です。中国社会の変化をよく観察してみると明らかに教育への投資が効果を発揮してきました。

私が大学生になった1980年には中国の大学入学者は年間30万人未満でしたが、今では、年間700万人を超え、海外への留学者数も年間60万人を超えています。馬雲氏のような経営者もこのような膨大な人材と巨大な市場があってこそ生まれるものです。

私は42歳の時に経営から引退しました。その時には既に最新の技術についていくのが苦しかったです。頑張ればそれなりにできたのでしょうが、好きでもないことに執着するよりも、若い世代にバトンを渡したほうが自分のためにも日本の社会にもよいことです。

若い世代の後ろに立ち、教育事業と公益事業に転換した馬雲氏は、中国の企業家達に良い手本を見せたのみならず、今まで以上に中国と世界に貢献してくれるでしょう。

大理での出会い

この秋から、米国の大学に在学中の長女が、14人のアメリカ人同級生とともに上海の復旦大学に留学しました。今日の宋メールは彼女に書いてもらいました。
(宋文洲)

大理での出会い

宋 紅叶

一週間ほど前から大学の交換留学で上海に来ていた私は、プログラムの一貫として中国雲南省の大理に訪れました。引率する教授が選んだ宿はリンデン・センターと言って、古くからの大理伝統の建築物をそのまま利用した素敵なホテルです。

到着した夜、教授が私たちをホテルのロビーに集めると背の高い優しそうな白人の男性がやってきました。旅行客かと思いきやなんと彼がこのホテルのオーナーだというのです。

彼はブライアン・リンデンと言ってシカゴの貧しい家庭で育ちました。18歳の時から掃除の仕事を始め、その稼ぎで夜間大学に通っていました。ある時、彼は貯めたお金で中国へ旅行に行きました。それが彼と中国との縁の始まりでした。

旅行を通じて中国に興味を持った彼は試しに中国政府の全額奨学金を申請してみると、なんと成功しました。1985年にブライアンは晴れて中国政府の招待で中国の大学で勉強を始めました。当時としてはとても珍しいことでした。

留学中の彼は米国CBSの報道カメラマンとしてアルバイトを数年間やりました。その経験から中国の魅力、歴史の深さを感じたと同時に、世界の中国への理解の浅さにも気づいたそうです。

中国の大学を終えた後、ブライアンはスタンフォード大学の全額奨学金をも獲得し経済学部を卒業しました。そのキャリアがあればアメリカでそれなりの収入を得て不自由のない暮らしもできましたが、彼はチャンスをくれた中国に恩返しをしたい一心で中国に戻ったそうです。

その後、中国の文化遺産を守る手伝いがしたいと、大理の国家文化遺産財に認められている土地に外国人として史上初めてホテルを建てることに成功しました。その他にも、彼は中国全土で中国政府と協力しながらいくつかの施設をデザインしています。

全ての施設は地元の人をスタッフとして雇い、レストランで使用されている食材などは全て地元のものを使用しているそうです。なぜなら、彼は国家文化遺産として認定されている土地の特色を守り続けながら、旅行者にもその美しさを味わってもらえ、地域も活性化させられるようなコミュニティーを作ることに人生を賭けているからです。

ブライアンの人生に私が深く惹かれたのは、彼の目には私が見たことのない中国が見えていたからです。日本で生まれ育ち、高校からアメリカで教育を受けている私は、中国人ながらも中国についてしっかりと学んだことは無く、世界が持っている中国へのステレオタイプというフィルターを通して中国を見ていました。

しかしながら、ブライアンの経験、そして中国への思いを聞いて、恥ずかしながらも自分よりもブライアンの方がよほど真の中国人だと認識しました。また、私の父も中国政府の奨学金で日本に留学したということもあり、ブライアンと父の人生に共通点をたくさん見つけました。

父がよく「中国政府からの恩は返しきれない」と私に話してくれましたが、アメリカ人であるブライアンの口から同じ言葉が出た時、私は何かに気付かされた気がしました。私が中国に対して持っていたネガティブな視点はただの偏見でしかなく、私自身で中国についてきちんと学ぶ必要があると気付かされたからです。

私は今大学で経済を専攻しています。私からすると、経済の授業には他の科目では無かった面白さ、そしてやりがいがあり、将来はビジネスの世界で何かをしたいと考えています。アメリカの大学の授業では中国の経済についてよく話しますが、中国社会の変化とグローバル化について触れることはありません。

変貌を遂げる中国社会についてブライアンは、「今の中国にはビジネスチャンスを生かし大金を稼ぐビジネスは沢山あるが、I want to be a dreamer, not only a businessman」と言っていました。

私はその通りだと思います。私が将来どこに住み、どんな仕事をするかはわかりませんが、ブライアンのように、損得よりも夢を持って生きたいと思います。

上海生活

上海でマンションを借りて落ち着いて生活するのは初めてですが、日本人がなぜ上海好きなのかよく分かりました。近所のショッピングモールには随所に和食レストランがあり、日本の日用品や食品を売るスーパーは何か所もあります。その売り場の規模は東京のスーパーよりも大きく、品揃えも申し分がありません。納豆の種類は日本のスーパーよりも多いと思いました。

北京のスーパーでも日本の食品を調達するのは難しくないのですが、さすがに日本の地方の名産は買えないのでこれまではよく日本の空港で北海道産の白い恋人をお土産に買って持っていきました。しかし正直、ここ十年で、日本から何を持っていけばいいのか、ますます悩まされるようになりました。

上海の近所のスーパーに行ってみるとその北海道産の白い恋人が山積されています。うっかり買ってきて人にあげると恥をかくところでした。100円ショップの大創から日本のアピタまでが集まるモールがあって、日本より少々高いのですが、中国人客は普通に買い物しています。日本人客はいないわけではありませんが、売り上げを支えているとは思えません。

上海の人々がなぜこんな純日本風の商品を買いに来るかは不思議に思いますが、友人の話によると日本の食品への信頼や訪日中国人の体験による部分が大きいそうです。

統計上の中国人の収入はずいぶん日本人より少ないのに、富裕層が増えたとはいえ、なぜこんなにも高いものが売れるか不思議に思う日本人は多いと思うので、中国人の収入の実態を知る出来事を紹介しましょう。

ソフトバンクの孫さんも投資し、日本に導入した「滴滴打車」をご存知の方もいるかと思いますが、これはUberと同じ仕組みで競争の末、両者が統合してできた巨大なライドシェアと配車サービスです。朝晩の通勤ラッシュの時でも間違いなく乗れるのは、システムのAI機能だけではなく、ピークを予測した上、「滴滴打車」がドライバーに乗車料金以上の奨励金を払うからです。

朝のラッシュ時に子供が通う塾に行こうと思って呼びましたが、やってきたドライバーはとても上品な40代の方でした。「普段は何をしているのですか」と聞くと彼は何と上海華東理工大学の先生だと分かりました。「先生なのにこんなことをする暇があるのですか」と聞くと「夏休みは2か月もあるので、朝晩によく暇な時間ができてしまうのです。通勤ラッシュ時に稼げるのでこうやって・・・どうです?私のドライブに不安を感じないでしょう」

出身地が私と同じ山東省であることもあって実情を聞かせてもらいましたが、夫婦共働きで収入が足りないわけではありません。しかし、彼には大学生の娘がいます。将来海外の大学で大学院に入る予定なのでその留学費用を貯めるために「滴滴打車」のドライバーをやっています。
日本では東京理科大学の先生が夏休み中にライドシェアのドライバーをやって子供の留学費用を貯めることはちょっと考えられないと思います。大学側が許さないだけではなく、先生たち自身もプライドが許さないでしょう。アメリカとなれば、夏休みは旅行やキャンプで楽しむのは当然であって、それを犠牲にして稼ぐことはまずありえないでしょう。

勤勉さと教育への熱心さ。日本や韓国も似たところが多いのですが、これは中国が今後も発展していく最も基礎的な要素だと思うのです。

中国のGDPはアメリカを超えるかどうか、政治家や評論家はよく熱心に議論するのですが、一人一人の市民にとってそれはどうでもよいことなのです。彼らは立場やプライドを脱ぎ捨て良い暮らしとより良い機会を手にする努力は家族のためにするのです。皆さんも上海に来られる機会があったら、ぜひショッピングモールを歩き、ライドシェアの車に乗って上海の活力の元に触れてください。

5か月間の中国の変貌

5か月ぶりに北京に戻ってみると近所のローソンの商品がまた良くなっていました。特に弁当、サンドイッチ、飲み物、中華まん、唐揚げなどの食料品はどんどん良くなっています。カウンターにコーヒーメーカーも設置され、ボストンのコンビニよりよほど魅力的です。

昨年の中国の小売り規模は米国とほぼ等しくなりました。今年は米国を超えるでしょう。消費は何と言っても小売りです。これには統計の違いもなければ、偽造や水増しもあり得ないのです。製造コストの上昇で中国を撤退するメーカーがある一方、この消費市場を狙って参入してくる企業も確実に増えています。

これは日本企業だけの傾向ではありません。中国企業自身も中国社会の変化に適応するのに懸命です。技術レベルが低く環境に負担をかけ安い労働力を前提にした大量生産の企業はどんどん行き詰まっているのです。

先週、私の故郷である山東省の大手民営企業が倒産しました。石油化工、食品加工、国際貿易に観光旅行などの多角経営を展開し、創業社長は過去において山東省一位の資産家に数えられたことがあります。

銀行に勤める友人の話を聞くと中小企業の倒産が急増しています。直接の原因は政府の引き締め政策にあると言うのですが、本当の理由は利益率が低く利息を払えない企業体質にあるそうです。ただ、長年に渡って中国政府が過剰な流動性を提供し、時代に合わない企業を延命させてきましたが、昨年からやっと方針を転換しました。

上海株式市場の指数もこの5か月間に2割も下落し続け、先週は歴史的に低い2700ポイントを割った瞬間もありました。追い打ちをかけるように、米中貿易戦争が勃発し、投資家の心理はいっそう冷やされる事態になりました。

日本ではここ十年慣れ親しんでいる中国崩壊論は、今こそ説得力を帯びてきたと思うのですが、逆に今潜んでいるのは不思議なのです。

私はどう見るかと言うと、今やっと正常な状態に戻ったと思うのです。借金まみれの上、利益も出ないようなゾンビ企業の存続こそ、社会の活力を奪う元凶です。改革開放の荒波に乗って荒っぽいやり方で急成長を成し遂げた起業家の多くが60代を超えました。彼らの事業の多くは第一次産業と第二次産業に属し、先進国ではもうとっくに淘汰されているのです。彼らは地方政府と結託し住民や社員の不満を押さえ、公共財である土地や融資と税金の優遇を享受してきました。

建設ブームが終焉し、消費社会になりつつある中国では、これらの産業は急速に市場を失うのです。彼らにはより人件費の安い東南アジアに移転するか、統廃合するかの方法しかありませんが、保守的な人たちはその痛みを拒否し、ゾンビ企業になってしまいます。

私が米中貿易戦争を歓迎するのは貿易戦争のショックで中国の保守派に現状維持を放棄させ、国内の改革を促す役割があるからです。いつまでも改革開放の初期のやり方で通せるとの思い込みはほかではなく中国をダメにするのです。もちろん、「America first」のトランプ大統領が中国のために貿易戦争を始めたとは思いませんが。

結局、最後の最後は競争力が勝負です。日本車とドイツ車にいくら関税をかけても米国車が売れないのと同様、貿易戦争がなくても、私の故郷から石油加工工場やセメント工場は消えていくのです。ならば早く消えたほうが社会コストが安いのです。

偏見と差別が生じる簡単な理由

恋愛中のカップルが結婚する確率は、あることに強く依存するという研究報告があります。それは金や立場や情熱などではなく、距離なのです。統計では距離が遠いほど、別れる確率が確実に高くなります。

ネットが発達し、東京に居てもいつでもニューヨークの恋人と顔を見ながら話せる時代ですが、この原理は変わっていないようです。

習慣、文化、宗教、行動パターンなど、どれを見ても人間は距離によってグループ分けしています。理由は単に近いところの人間同士は影響しあい、段々染まりあい、最終的に親近感を抱くからです。

このことは遠いところにいる人と接触しないと分かりません。いつまでも親戚や隣人や同僚としか付き合わない日本人はアフリカや南米で出会った韓国人や中国人への親しみは湧かないでしょう。

世界になぜこんなにも多くの国と言語があるのでしょうか。キリスト教では人間への罰としてお互いが言語を分からないようにしたとか。しかし本当の理由は距離です。近くの人と親近感を持ち、共通の生活習慣と文化を作っているうちに自然と独自の言葉ができてしまうのです。

日本の学校でも近年「多様性が重要」という認識が広がり、先生たちはしきりに「多様性」を強調しますが、その先生たち自身に多様性がない上、生徒たちにも多様性がありません。結局言葉遊びに終始し、誤解を増やすだけなのです。

米国でもダイバーシティやインクルージョンを強調し始めたのはつい最近のことです。60代以上の米国人は有色人種と白人が同じバスに乗れない生活を経験したはずです。様々な移民を共存させ、国家として成り立たせるために人種間の違いを乗り越えるための理論武装としてダイバーシティを強調し始めたのです。いわゆる移民国家のイデオロギーなのです。

一方、アジア、特に東アジアの国々では、大昔から似た民族同士が同じ場所で居住しています。多様性がないとは言いませんが、その相違の程度は米国のような海を越えた移民同士間の相違とまるで違うのです。原住民国家は階級間の差別が問題になることが多いのです。

留学生が多い米国の寄宿学校の食堂に行けば、人種が人の行動にどのように影響を与えるかが分かります。同じ人種の生徒が集まってランチを取る風景はむしろ自然なのです。娘の学校ではこの自然現象を阻止するためにランダムに座席の位置を作り、強制的に生徒たちを座らせるのです。

似たものに親近感と安心感を覚えるのは動物の本能です。赤ちゃんが最初に見る顔はお母さんの顔です。それからお父さんの顔です。これと似たような顔をする人たちに安心感を覚えるのは当然です。生まれた時からこの感覚が脳に仕込まれている可能性もあります。

人間は似たもの同士が集まり、生活と仕事をし、時間を楽しむ傾向は生物の生存本能です。これによって連帯感を持ち、他の人種と競争したり、争ったりするのです。異なる人種の身体や行動や文化に違和感を覚えるのも仕方がないことです。その行き過ぎは偏見と差別になってしまうのですが、これも仕方がないと言いたいところですが、放置すると自分自身の平和が壊れるので克服する知恵が必要になってくるわけです。

ダイバーシティ。多様性を受け入れ、人種差別をなくすというこの理念は、近代の急速な植民地の広がりと移民化によってもたらされた問題を克服するためのイデオロギーなのです。偏見と差別は距離によって生じる普通のことだと分かれば、もう少し余裕をもってこの問題に対処することができると思います。差別した時も差別を受けた時も、です。